「試合に出られない選手が不平不満を抱くのは当然。我々は不貞腐れた選手を野放しにしない」
選手との接し方にも、外国人監督の手法を参考にしている。彼らがなぜJ1で成功を収めているかを突き詰めると、コミュニケーションの頻度の違いが浮き彫りになる、と手倉森は考えるのだ。
「鹿島の関係者に聞くと、ジョアン・カルロスやオリベイラはミーティングが長かったそうです。でも、言っていることはだいたい同じだと。言ったことを選手ができなければ、何度でも繰り返す。そうやって徹底するんですね。これが日本人監督になると、『それはもう言ったから』と自己完結してしまうところがある。選手を信用しないのではなく、言い続ける必要性を、外国人監督は感じているんだと思う」
選手のメンタルマネジメントにも、手倉森は心を砕く。ベガルタは親会社を持たない。潤沢な資金を現場へ注ぎ込むのは難しく、緊急事態の対処法も限定される。新戦力を補強するよりもまず、現場レベルで乗り切ることが最優先される。
一人の落伍者も許されないからこそ、手倉森は選手全員と正面から向き合う。「心の通い合ったチームを作りたい」という、揺るぎない思いを抱く。
「試合に出られない選手が不平不満を抱くのはある意味で当然でしょう。でも、我々は不貞腐れた選手を野放しにしないし、そうなる前にアプローチする。監督は立場が上という意識で話すのではなく、選手と同じ目線に立ったり、サッカーマン同士、男同士という意識で接することもある。人生の先輩としても。20歳の選手を諭すなら、同じ年齢の自分はどうだったかなと考えたりもしますよ」
プロフェッショナルとしての厳しさを、捨て去っているわけではない。「選手のメンタリティを鍛えるのも仕事」としながら、距離感はきっちりとはかっている。
「選手を手離すのも指導者の責任です。クラブとしてはお金が発生しているわけだから。最後にはそういう気持ちもある。外国人監督は、選手に対して熱いところとドライなところの使い分けがうまい。だからタイトルをつかむのかな、とも思う」
とはいえ、見離されるようにチームを去った者は皆無だ。ゲームに絡めていない選手も黙々と汗を流す日常が、ベガルタにはある。「ウチの選手たちは、どんな立場でもチームの目標に対して手を緩めない。8月下旬のいま現在、先発で出ていない越後、藤村、奥野、武藤といった選手も、他チームで出ていない選手よりはるかに成長していると思う。練習試合のパフォーマンスは素晴らしい」
だから、と手倉森は続ける。未曾有の大震災を乗り越えることができたのも、チーム全体が心を通わせてきたからだったのだ、と。