こだわり続けるパス精度
迎えた広島戦。指揮官はこう言って選手たちをピッチに送り出したという。
「相手の守備は強固だが、ゴール前でしっかり崩すことを楽しもう」
そして試合が始まると、川崎の選手達は立ち上がりから丁寧なボールポゼッションで主導権を握り、広島守備陣の隙をうかがい続けた。すると10分、緩急をつけたパスワークから右サイドで起点を作り、中村憲剛の鮮やかな一撃で先制に成功。
日本代表GK・西川周作のニアサイドを打ち抜いた中村のフィニッシュ精度も素晴らしかったが、右サイドで2人相手に粘りの突破を見せた田中裕介のアシストも見逃せないところだ。
「運良くボールがこぼれてきただけです。憲剛さんがいいタイミングで走ってくれていて、シュートも上手かった」と本人は謙遜していたものの、動き出していた中村の足元にピタリと届けたあのアシストは絶品だった。
リーグ随一の得点力を誇る川崎フロンターレだけあって、その崩し方は多彩だ。ペナルティエリア内を崩して決めた得点も当然ながら多い。一般的にはスペースがないと言われている密集エリアだが、それをあれだけ攻略できているのには、しかるべき理由が存在しているからに他ならない。
例えばフォワードが斜めに走ったとき、味方が走る延長線上にボールを出すイメージがスルーパスだろう。しかし風間監督は「そのパスではダメだ」と厳しく指導している。スペースにボールを出せば、相手との競争になるからである。そうではなくて、「走る味方の足下にピンポイントで合わせること」を要求している。
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