「広島は守りのチームという印象」
もっとも、昨年までのJ1に限れば、この守備陣形を採用しているクラブは広島ぐらいであった。しかしこのスタイルでリーグ制覇した影響もあり、これを追従するクラブも今年は現れてきた。
夏の期間において、スタミナの消耗を抑えた試合運びを考えた場合、自陣に極端に人数を割いて守るこの”篭城作戦”というのは悪くない策でもあるのだろう。なによりボールを保持して積極的に攻め込んで来るフロンターレと対戦する際には、好都合だった。
夏場に対戦した第17節の湘南、第20節の甲府といった下位チームは、どちらも[5-4-1]で潔く守り倒す手法を選択。
自陣のスペースを人数で消し、攻撃のキープレイヤーであるレナト、大久保嘉人、中村憲剛には空間と時間を与えないようにマークをタイトに行い、粘り強く守る策で接戦に持ち込んでいる。ナビスコカップ準決勝第一戦では、普段であれば攻撃に出て来る浦和もこれに近い守り方を採用し、川崎フロンターレを苦しめている。
9人で手厚く守る相手に苦戦を強いられるのは、サッカーでは常識的な現象と言えるのかもしれない。しかし、そこで“無理”を通して、“常識”を引っ込ませるのが、風間監督の仕事でもある。そして、そのために行う指揮官の取り組みは一貫しており、こちらがそれを問うたびに、こう言い続けていた。
「自信を持つことと丁寧にやり続けることが必要になる。自分たちがしっかりとボールを持つこと。そして正確にやること。やり続けて相手をやっつける」
奇策を用いるのではなく、あくまでボールを奪われない技術の精度を徹底的に高めて打開していく。このスタンスを貫き続けていたのである。
そういった背景もあったがゆえに、第25節の広島戦は注目だった。試合前日に意気込みを聞くと、口調こそ淡々としていたが、「広島は守りのチームという印象。そういった引いた相手を崩していくためのサッカーをずっとやっていますから」と言い切っている。
守り勝とうとする相手には自分たちが仕掛け続けることで粉砕するという、風間監督の力強い決意が感じ取れた。