ウイングバックにおけるマッツァーリの考え
事実、布石となる動きは試合中かなりあった。前半の40分、ジョナタンが右でボールを持つと、ファーに入ってクロスを呼び込む。頭上を浮いたボールに合わせられず、スタンドからはため息が漏れていたが、その後も長友はポジション取りを続けていた。
「右サイドで(味方が)持った時に、出る時はゴールを狙っていけと監督からも言われていた」と彼は言う。
そのマッツァーリ監督はさらに試合後、こう言ってのけた。
「アウトサイドの選手が揃って点に絡んだのは、選手たちが私に従ってくれているひとつの表れだ。FWだけが注目されがちだが、点に絡めばアウトサイドだって“FW”。このように、相手DFに基準点を与えずかく乱することは、攻撃の上では生産的になる」
マッツァーリは昔から、マークの付きにくいウイングバックを中央に絞らせることを奨励している。顕著な例が、ナポリにいるイタリア代表のクリスティアン・マッジョだ。
スピードとスタミナに溢れているが、決して器用な選手ではなかった彼は2007年、サンプドリアでマッツァーリ監督との邂逅を果たすと大変身。走力を用いてゴール前に絞る動きを会得すると、シーズンで9ゴールを達成。ナポリ移籍後も毎年4ゴールのペースで点を取っている。
セリエA初ゴールに11年12月ジェノア戦でのヘッド、ELのルビン・カザン戦のボレーに今回のゴールと、右から入るボールに対する長友のシュート感覚は良い。マッツァーリ監督の薫陶を受けてそれが伸ばされれば、さらにとらえどころのないプレイヤーに成長するかもしれない。
それはまた、方向性としても間違っていない。長友自身「攻撃で結果残さないと夢はかなっていかない」と語っていたが、彼の思い描く『世界最高のサイドバック』とは攻守両面がハイレベルでこなせる選手のことに違いないのだ。