【ブラジル】主審が中断・中止を判断し、再試合については大会主催者が判断
ブラジルでは、試合の中断、中止、再試合の決定に関してとくに明文化された規定はない。筆者がブラジルサッカー協会に問い合わせたところ、「試合の中断と中止に関しては主審が、再試合に関してはその大会の主催者が全責任を負う」との答えだった。
過去、悪天候、照明のトラブル、テロなどのため試合が中止されたことはないが、2000年12月30日に行われたブラジル全国リーグ決勝のバスコダガマ対サンカエターノ戦2ndレグが前半23分時点(スコアは0-0)で中止され、後日、90分間の再試合が行われたケースがある。
12月30日、バスコダガマの本拠地、サンジャヌアリオ・スタジアムは1時間以上前から超満員だった。収容人員は約3万8000人で、有料入場者は3万3000人余り。ただし、招待客などチケットを持たずに入場した観客が相当数いた。
前半21分、バスコダガマのロマリオが怪我のため交代。その直後、バスコダガマのサポーター同士でロマリオの交代をめぐって喧嘩が起きた。周囲の観客が逃げようと押し合い、スタンドとピッチを隔てる鉄格子のフェンスがピッチ側に倒れ、観客が次々に将棋倒しとなった。主審は直ちに試合を中断。負傷者総数は168人、うち3人が重傷だったが、幸い、死亡者はなかった。
大会規定で、「いずれかのクラブのサポーターによる騒動が原因で試合が中止された場合、そのクラブの負け」とされていたため、負傷者全員が病院に搬送されたあと、バスコダガマが試合続行を強く主張した。
しかし、自宅のテレビで試合を見守っていたガロチーニョ・リオ州知事がスタジアムに「これだけの負傷者が出た以上、試合を中止するしかないだろう」と電話を入れ、主審は試合中止を決めた。
メディアとファンは、事故の責任者でありながら試合続行を主張したバスコダガマを強く批判。リオ州知事と主審の判断を支持した。
大会主催者(この年は例外的に、ブラジル主要クラブ連合だった)がサンパウロ、リオの両州サッカー協会と協議した末、1月18日に再試合を行うことを決定。試合はリオ州のマラカナン・スタジアムで行われ、バスコダガマが3-1で勝って優勝した。
文=沢田啓明(サッカー批評45、2009年12月発売)