物足りない田邊の自己表現力
そして3つ目の理由は、西が丘のピッチでも見えた田邉の希薄な自己表現力だ。
チームに合流して間近、スペイン語が話せないといった要因を差し引いても、CEサバデルの中でプレーする田邉はあまりに大人しく、味方に「自分はこういうプレーをしたい」と主張することが90分を通して皆無だった。
日本でプレーする場合は「阿吽の呼吸」なる言葉が存在し、実際に相手を思いやることで相互理解が生まれることもあるが、海外、特にスペインのようなラテン気質の国では「口に出して言わなければ何も伝わらない」と考えていい。
国やリーグのレベルに関係なくレギュラーを獲るということは、監督から尊敬と信頼を勝ち取るということで、特に自我の強い人間が集まる海外においては自分というものを互いにぶつけ合うことでしかコミュニケーションは成立しない。
もちろん、語学力を上げることは海外での成功で欠かせない条件だが、言語というのはあくまでコミュニケーションを取るためのツールであり、このFC東京戦での田邉のように明らかに“お客様”の雰囲気を醸し出しているようでは、どれだけ言葉を操れるとしても周囲から尊敬と信頼を獲得することは難しい。
プレシーズンのフレンドリーマッチ1試合での様子だけを見てこうした厳しい指摘をするのは私自身としても「不公平」だと思うが、裏を返せばそれだけ田邉には期待しているということ。
彼のように日本で一般的に「巧い」と評価される選手が人間的にも海外で評価され、活躍してくれることで日本サッカー界は次なるステージに進むことができる。彼のサッカーセンスやタレント性に疑いの余地はないからこそ、最終的には私が挙げた要素を全て克服した上で、CEサバデルの中でしっかりと自身の居場所を確保してもらいたい。
【了】
記事提供:サッカーを読む! Jマガ