AED設置の是非を巡って
インタビューを始めるべく、ICレコーダーの録音ボタンを押そうとすると、絶妙のタイミングで大月の携帯が鳴った。「ああ、ファーガソン監督からのメッセージね。いずれきちんと公開しようと思っています」――。
「ファーガソン監督」とは言うまでもなく、マンチェスター・ユナイテッドの名伯楽、サー・アレックス・ファーガソンのことだ。松田の突然の死を悼むメッセージが、本人のサイン入りでクラブに届いているらしい。誰もが知るメガクラブの指揮官から、日本の3部クラブにメッセージが届く、この不思議さ。今さらながらに故人の影響力の大きさを感じずにはいられない。
今回の松田の死について、立場上、最も批判の矢面に立たされたのは、間違いなくこの大月だった。8月2日の練習会場が、信大病院から離れていたことに加え、AED(自動体外式除細動器)が設置されていなかったことを問題視する意見がネット上で溢れ、非難の矛先はクラブの代表である大月にも容赦なく向けられた。本人は語っていないが、松田の葬儀の際にも、そのことで大月に詰め寄る者がいたことを私は耳にしている。
「あの状況でAEDがあれば助かったかどうか、それは医師ではないので分からないです。ただ、JFLで(設置が)義務付けられていなくても、Jを目指すクラブとして、その用意をしておくことが必要だったのかな、という部分で申し訳ない気持ちですね」
練習場にAEDがなく、しかもたまたま見学に居合わせた看護師が応急処置を施したことについては、Jクラブの常識で考えれば、確かに「あり得ないこと」なのであろう。だが、いくらJリーグ準加盟を果たしたとはいえ、多分にアマチュア体質を含んでいるJFLにおいて、そうした危機管理に多くの予算を割けないのが実情である。
松田が倒れた翌日、日本サッカー協会の小倉純二会長は、JFLにもAED設置を義務付ける方針を明らかにしている。その契機を作った山雅は、すぐさま携帯式AEDを導入した。
「今はスポンサーの方々のご厚意で、レンタルさせていただいているんですけど、近々10台、全部のカテゴリーに導入することにしました。こういうことが起こってしまってから遅いんですけど、その後については万全の態勢で臨みたいということで……」
AEDの価格は25万~35万円くらいが相場である。これを10台確保するとなると、JFLではそれなりに大きな出費だ。それでも、こんな悲劇はもう二度と繰り返したくないし、繰り返してはならない。そんな確固たる決意が、大月の横顔から垣間見えた。