「クリーンすぎてもいけない」
鹿島アントラーズといえばマリーシアだが、これはクラブをブラジル化することでブラジル流の常識を浸透させるという解決策を採ったものだろう。その浸透の仕方が強固だから揺るがないし、ほかのクラブから目標にされる存在にもなった。
ポポヴィッチ監督は「怠慢な動きをしたり、相手に隙を与えてはいけない。リードする前と同じプレーをコンスタントにやり続けなきゃいけない。いいリズムでプレーできたときに考えなければいけないのは“またそのリズムが来るから”ではなく“そのリズムを90分間つづける”、自分たちの流れでプレーすることを90分間続けることが大切だと思います」と言うと同時に、鹿島など外国人監督のメソッドが入ったチームのマリーシアにも言及した。
「クリーンすぎてもいけない。たとえばフリーキックの壁を動かすという駆け引きがあってもいい。そこでの小競り合いを五回繰り返せば、試合の時間を五分削ることになる」
よく「失点を防ぐには細かいところに気をつけなければならない」とポポヴィッチ監督は言う。実際、サッカーの試合にはリスタートやファウルのたびにマリーシアを発揮する隙ができる。そのディテールは、一定の型を繰り返すだけでは埋めきれないものだ。
フリーキックになれば壁の駆け引きがあり、相手はルールとは違う位置に立つという「ズル」をする可能性がある。ファウルをすれば、倒れた相手に手をさしのべているうちに、クイックリスタートをされるかもしれない。
だからマリーシアを身につけるか、あるいは自分たちではやらなくとも、相手がやってくる可能性を考慮して「こまかいところ」に気をつける。
そしてそういうディテールを塗りつぶしてなるべく「ズル」をさせないためにも、一定の型を貫き通す時間を長くする。
ポポヴィッチ監督の提案には一理ある。
処方箋はこれだけではないのだろうが、FC東京が抱える課題に対してのポポヴィッチ監督の思考は、日本の今後を考えるときの参照材料となりうるものではないだろうか?
足下のボール扱いを鍛えるのもいいが、90分間のゲームをどう遂行するのかということを考える視点が、日本人にはもう少し必要なのかもしれない。
【了】