この国が抱える深いジレンマ
「恒大の攻撃はその7割から8割がコンカの足を経由している」とは柏のネルシーニョ監督の戦前のコメントだが、わかっていても止められない。この日、コンカはPKの1ゴールにとどまったものの、「さすがは年俸11億!」と見る者を唸らせるプレーを連発。チームの勝利に大きく貢献していた。
恒大はACL直前のリーグ戦で、杭州緑城にも3‐1で勝利している。前述したとおり、緑城というクラブは、特定の外国人選手に依存することなく育成に力を入れる方針を打ち出し、それゆえ日本人の岡田に白羽の矢を立てた。だが結果として恒大は、緑城と柏にいずれも3‐1で勝利することで「日式足球」に明確な「否」を突きつけることに成功したのである。
その後、恒大はラウンド16でもFC東京を1‐0で破り、初のベスト8進出を果たした。新監督にマルチェロ・リッピを迎え、さらにパラグアイ代表のバリオスを獲得した恒大が、ACLファイナルまで上り詰める可能性は十分にあると思う。だが、長い目で見た場合、本当にそれが中国サッカーの未来のためになるのかといえば、素直に頷けないのも事実だ。
今回の取材を通して、さまざまな中国足球の現場で、たびたび「日本サッカーに学ぶべし」という言葉を耳にした。しかしながら今回の恒大の躍進は、その強烈なアンチテーゼとなったように思えてならない。
潤沢な資金を持ったクラブが、優れた外国人選手を買い漁り、グラスルーツや育成に目を向けなくなったとき、果たして中国サッカー界に光明は見えるのであろうか? 残念ながら、私の答えは「否」である。
恒大の躍進と中国足球の成長は、決してイコールではない。そこに、この国が抱える深いジレンマがある。
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