選手の“工場”としての役割に特化
2005年11月、ぼくがマセイオを訪れた時、知良の従兄弟、納谷伊織がコリンチャンス・アラゴアーノに所属していた。伊織は知良の父親――納谷宣雄の弟、義郎の息子である。知良と同じ静岡学園から国士舘大学に進んだ。大学卒業後にブラジルの地を踏み、中堅クラブを渡り歩いていた。
伊織は本来のポジションであるトップ下ではなく、サイドバックで起用されていた。正確なキックでサイドから攻撃を組み立てていた。ただ、知良と違って、ここから這い上がってやろうという気迫が感じられなかったのが残念だった。
ぼくが見た練習試合が行われたのはコリンチャンス・アラゴアーノのスタジアムだった。石油精製工場に隣接し、芝生が禿げているCRBの古い練習場と違って、スタジアムはまだ新しく、芝はきちんと整えられていた。
このクラブは現在ブラジル全国選手権では3部リーグに所属している。クラブの目的は全国選手権で昇格し、名前を挙げることではない。若く才能ある選手を発掘し、欧州に売却し利益を上げる。選手を育てるために、勝敗を度外視して、若手選手に試合経験を積ませる。選手の“工場”としての役割に特化し、成功していた。
この方針の善し悪しには敢えて言及すまい。ただ、これもブラジルサッカーの現状である。
【了】