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暑さはサッカーの敵なのか? 「夏場はいいサッカーができない」を科学する

一般にサッカーにおいて夏場はパフォーマンスが落ちると言われている。感覚としてそれを理解することはできるだろうが、実際にどの程度の影響があるのか? そして、夏に試合を行うことは日本のサッカーにとってデメリットでしかないのか? シーズン制の議論をするうえでも暑さが選手のパフォーマンにどれだけ影響を与えるのか科学の視点から検証することは重要である。サッカーにおけるコンディショニング理論の第一人者である立教大学の安松幹展教授に話を聞き、科学的見地から検証してみたい。

text by 北健一郎 photo by editorial staff

【サッカー批評issue56】掲載

暑いとスプリントが少なくなり 間延びする現象も起こる

 夏になるとパフォーマンスが落ちる――。

 これは日本のみならずサッカー界では、もはや“常識”とされていることだ。夏の暑さは選手から体力を削り取り、判断力を奪い、足を止める。筆者自身、学生時代はサッカーをプレーしていたが、日本特有のうだるような蒸し暑さの中でプレーしていると、頭がもうろうとしてきて、心が折れそうになった経験が何度もある。

 サッカーは基本的に“冬のスポーツ”だと言われる。スプリントを繰り返しながら、しかも長い距離を走るサッカーでは、暑い中ではレベルの高い試合はできないと。Jリーグでは数年前から現行の春秋制から秋春制への移行がテーマとなっているが、その要因の1つとしても「夏場の試合がなくなること」はメリットとして挙がっている。

 では、本当に夏になるとパフォーマンスは落ちるのか。それを検証してもらうべく向かったのは立教大学の新座キャンパス。日本サッカー協会技術委員会のフィジカルフィットネスグループのメンバーでもある安松幹展教授が、サッカーにおける暑さとパフォーマンスの関係について、データを交えて語ってくれた。

暑さはサッカーの敵なのか
安松幹展教授【写真:編集部】

「一般的に『暑い』とされる25度以上を超えると、マラソンなど長距離系のタイムは落ちます。ただ、100メートルなどのスプリント系は寒いときより暖かい方が良いタイムが出るんです。じゃあ、サッカーのようにスプリントを繰り返しながら、長時間走るスポーツはどうなのか。

 Jリーグの試合で31度と16度のときで、同じチームの走行距離とその中身がどう変化するのかを比較したところ、トータルの走行距離はそれほど変わらないのですが、暑いときはウォーキングやジョギングが多くなって、スプリントが少なくなったというデータが出ています」

 サッカーの魅力は攻守が目まぐるしく入れ替わり、アップテンポな試合が行われるところにある。しかし、全力で走る場面が少なく、歩いている時間が長くなったら――。眠気を誘われるような退屈な試合になるだろう。

「さらに、プレーのエリアが広がるという現象も起こります。これは夏の高校総体と冬の高校選手権でとったデータなのですが、FWからDFの選手までの距離が長くなる、つまり“間延び”した状態になります」

 2006年ドイツW杯の日本対クロアチア戦を思い出してほしい。35度を超える猛暑の中で行われた試合は、両チームともにFWとDFラインの間が間延びし、見せ場がほとんどないままタイムアップ。現地解説者から「予選リーグで最もつまらない試合」と酷評された。プレースタイルや、コンディションなどの要因もあったにせよ、暑さが試合内容に大きく関与したのは間違いない。

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