特徴的なディフェンスラインからのビルドアップ
もう一つ、この戦術を成立させる上で重要な役割を果たしているのは、3CBを活用したビルドアップである。3枚のCBは守備に専従するだけでなく、ポゼッション時には横いっぱいに拡がって、組み立てに参加。こうしてウイングバックに効率よくパスを展開し、ピッチの幅を取ることが可能となっている。練習では、10対0形式の反復練習でこの位置からのビルドアップが徹底的に叩き込まれる。
中村俊輔はレッジーナ時代「DFには蹴り出すなと言っていた。FWが(ボールを貰いに)下がっても怒らない。この監督は考え方が違う」とマッツァーリのことを評していた。
守備重視のイタリア、特に弱小クラブにおいては、後方でボールを操ることを怖がってCBにボールを蹴り出させるチームも多かった。しかしこのメンタリティにメスを入れたことが、彼の最大の功績であり、3バックを攻撃的な戦術として世に蘇らせた秘訣と言える。
こうして確立された3バックの方法論は、他チームにも伝播した。徹底的に高い位置からハイプレスを掛けるユベントス、またテクニカルなポゼッションを重視するフィオレンティーナはアプローチこそ違えど、ナポリで証明されたシステムの利点を取り入れている。
ユーベとビオラのメカニズム
4-2-4、4-3-3に続き行き着いたユベントスの3-5-2。パスセンスに優れたボヌッチが最終ラインからビルドアップすることでピルロの負担は軽減された。攻撃時にはヴチニッチが下がってボールをもらい、2列目以下の選手がどんどん飛び出していく。19歳のポール・ポグバ、左ウイングバックのアサモアは運動量豊富で、強烈なハイプレスを可能にしている。
ユベントスのコンテ監督は3-4-3をベースに、高く押し上げたDFラインからのプレスとサイド攻撃を駆使していた。ところがサイドアタッカー陣に故障者が出て3トップが出来なくなったため、3バックに切り替えたところ想像以上にはまった。彼らは『3CBを活用したビルドアップ』、そして『高く張らせたウイングバック』というシステムの利点を活用し、チーム戦術をさらに果敢なものとしている。
まずは3バックの導入に伴い、レオナルド・ボヌッチがピルロに続く第2のビルドアップ役として立場を確立した。中央に据えられた彼は「自分の周りにスペースが拡がるし、ゲームの把握もし易くなる」と、もともと定評のあったパスセンスをさらに磨いていく。キエッリーニとバルザーリの存在で負担も軽減され、安定感は増した。2010年にユーベに加入した彼は「補強の失敗」と批判されていたが、その声もなくなった。