研ぎ澄まされた感覚がプレーの出来を左右する
初めてブラインドサッカーを目にした人は、マスクをした選手がぶつかり合ってボールを奪い合い、ドリブルしてシュートを決める姿に驚く。視覚障害者の競技という概念が吹き飛ぶに違いない。それほどブラインドサッカーは激しく、見ていて興奮が沸き上がる競技なのだ。
日本選手権・決勝のハーフタイムでのイベントで、大会アドバイザーを務めた名波浩は競技の魅力について、次のように語っている。
「ブラインドサッカーはすごい競技。研ぎ澄まされた感覚がないとプレーできないし、人や壁に対する恐怖心は私たちの常識を超えている。サッカーとブラインドサッカー、お互いに学べる部分はある」
今大会のアドバイザーに就任し、サッカー教室を開いて盛り上げた名波浩。決勝戦を見守り、報道陣の質問にも積極的に応じた【写真:鰐部春雄】
彼の目から見た“研ぎ澄まされた感覚”“お互い学べる部分”と一体何なのか? その真意を知るため、詳しく話を聞いた。
――どういうところに“研ぎ澄まされた感覚”を感じますか?
「彼らは普段一人暮らしをしていて、移動も一人でするそうです。『どうやっているの?』と質問したら『家の中はどこに何があるのかを把握していますし、いつも通っている道は記憶しています。日常生活で必要なことはパターン化しています』と答えてくれた。でも、最後に『工事とかがあると僕らも大変』とも言っていました。
目が見えない人は、生活の中で杖や点字などさまざまな手段で情報を得ています。普段から感覚を研ぎ澄まして集中している。でも逆に言えば、そうしていないと不測の事態に対応できない部分がある。サッカーはイレギュラーなことばかりで、ブラインドサッカーも同じです。
選手はそこもおもしろいんだと思う。パターン化通りにいかない時にどうするのかも。ブラインドサッカーには、サッカーと違った予測が必要です。例えば、壁がどこにあるのか、コーラーは今どのあたりで指示を送っているのか、敵の声はどこから聞こえてくるのか。あらゆる音の情報を聞いて、コート全体をより鮮明にイメージしないといいプレーができない。そういうことは、普段から研ぎ澄ましていないとやれないと感じます」