トップクラスの影響力と価値
中田英寿が、どちらかというと同世代の同性と女性ファンに支持され、ファッショナブルでトレンド的な商品のCMにも出演するのと対照的に、カズは支持層が幅広く、庶民的な商品のCMが多いという。影響力ではほぼ同じながら、経済効果のときと同じくここでも棲み分けがなされている点が興味深い。ちなみに、サッカー選手で現在CM出演がもっとも多いのは長友佑都選手。マツダ、アサヒビール、ロッテ、ACジャパンなどのCMに出演し、幅広い層から支持されているという。
「今のような逆境の時代には、企業もCMで説明責任や企業姿勢を問われています。そういう点で軽いイメージのタレントよりも、実績あるアスリートの方が適していると考えている企業は多いです。本業があるからタレントほどCMには出演できませんが、トップアスリートのCM需要は高いです。三浦選手のようにカリスマ性があり、説得力のある方なら今後も出演依頼があるでしょうし、トップクラスの影響力を保ち続けると思います」
関戸さんの解説を聞きながら、CMでもカズは“キング”であることを理解した。逆境を乗り越えて今もプレーし続けるカズ。選手としての活躍度やCM出演本数では、若く勢いのある旬のアスリートにはかなわない。それでも、専門家が「トップクラスの影響力、価値を持つ」と分析するのは、やはりカズが「ひとつの時代が生んだスター」であることを証明していると感じる。そして、スターであり続けることが、どんなに稀なことなのかも証明してはいないだろうか。
東北地方太平洋沖地震復興支援チャリティーマッチでカズがゴールを決めた瞬間、日本中がどよめき、感動に包まれた。それは、ほかの誰にもなし得ないシーンだった。経済効果の試算では計りきれない力を皆に与えたはずだ。
そういえばかつて、某カード会社が「感動はプライスレス お金では買えない価値がある」という逆説的なCMを打っていたことをふと思い出した。
「カズの価値はプライスレス」 それが、この不粋な取材を終えての偽りなき感想である。
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