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ブラジル時代のカズを追って ~サッカー王国での7年半を知る人々の回想録~(中編)

text by 沢田啓明 photo by Hiroaki Sawada

決定的なシュートチャンスがあってもパスを出してしまう

 マツバラ時代と同様、カズの出場試合を取材した西山幸之カメラマンが語る。

「ここでも、カズのドリブルは立派に通用した。またぎフェイントでマーカーを抜き去ると観衆は大喜びで、カズ・コールを繰り返す。ガリンシャ・ジャポネス(日本のガリンシャ)と呼ばれて、チーム一の人気者になった」

 ガリンシャは、50年代前半から60年代後半にかけてボタフォゴ、ブラジル代表などで活躍したブラジルサッカー史上最高のウィングだ。驚異的なテクニックで相手選手を翻弄し、ブラジル国内ではペレを凌ぐ人気者だった。

 サッカー王国ブラジルで、外国選手がブラジルの国民的英雄であるガリンシャに例えられる――これほどの栄誉はない。カズは大きな自信をつけた。その一方で、課題も見えてきた。

「アシストは多いんだけど、点を取れない。いや、取れないんじゃなくて取らないんだ。決定的なシュートチャンスがあっても、自分で打たないでパスを出してしまう。その後のカズからは考えられないだろうけどね(笑)。日本的な遠慮があったようだ。

 ただ、パスをもらって点を取った選手からは感謝されていた(笑)。試合前には、いつも(西山さん、今日こそ点を取りますよ)って言うんだ。でも、いざ試合になったらやっぱりシュートを打たない。その繰り返し。見ていて歯がゆかった」

 それでも、この頃から、将来、日本代表でプレーすることを意識するようになる。「右手を胸に当てて、君が代を歌う練習をしていた。それも大声でね。当時は、いずれ日本代表に選ばれるような選手になるとは想像できなかったけど(笑)」

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