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ブラジル時代のカズを追って ~サッカー王国での7年半を知る人々の回想録~(前編)

text by 沢田啓明 photo by Kenzaburo Matsuoka, Hiroaki Sawada

「いつも陽気。苦労していることを他人には見せない子だった」――木村理髪店の木村光子さん

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ブラジル滞在中にカズが通った理髪店の木村光子さん【写真:沢田啓明】

 ブラジルにやってきた当初から、カズはサンパウロにある日本人経営の理髪店で髪を切ってもらっていた。

 店は、日本人、韓国人、中国人などの経営する食料品店、雑貨屋、レストランなどが密集する東洋人街リベルダーデの一角にある。客のほとんどが日本人か日系人で、店の内装は日本の地方都市の理髪店そっくり。店のオーナーが、熊本市出身で1960年にブラジルへ移住してきた木村光子さん。自らも鋏を持ち、カズの髪を切っていた。

「いつも明るくて朗らかだった。とてもおしゃれで、髪型やファッションには気を使っていたわね。散髪が終わると、たいていワンマンショー。シャネルズや田原俊彦の歌を、思い入れたっぷりのポーズで歌うの。カッコ良くて、女性従業員から人気があった」

 店では、生活面やサッカーでの苦労は決して話さなかったという。「いろいろ苦労しているらしいことは、他の人から聞いて薄々知っていた。でも、絶対に泣き言を言わないの。すごく負けず嫌いで、本当に根性があったわね」

「サッカーに全身全霊を捧げていた」――キンゼ・デ・ジャウーのパウミーロ元会長

 年齢別大会に出場する機会を求めて、1984年9月末、カズはジュベントスからキンゼ・デ・ジャウーへ移った。

 ジャウーは、サンパウロ市の北西約300キロの地にある人口13万人ほどの農業都市だ。サトウキビ、コーヒー、綿などの栽培が盛ん。サンパウロより暑く、真夏には気温が摂氏40度近くになる。

 この町に本拠を置くのが、キンゼ・デ・ジャウー。1990年代にリヨンなどで活躍したFWソニー・アンデルソン、2000年代にバルセロナなどで活躍したDFエジミウソンらを輩出しており、1990年代に清水エスパルスなどで活躍したFWトニーニョ、元ブラジル代表FWフランサ(元柏レイソル、横浜FC)らも在籍したことがある中堅クラブだ。当時はサンパウロ州1部リーグに所属しており、若手育成のうまさに定評があった。

 17歳のカズはクラブ近くの選手寮に住み、プロ選手を目指して懸命に練習を積んだ。当時のカズを誰よりもよく知るのが、会長を務めていたパウミーロ氏だ。「あれほどサッカーが好きで練習に打ち込む男は、それまでもその後も見たことがない。誇張でなく、サッカーに全身全霊を捧げていた」

【中編に続く】

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