行き過ぎた宗教的政策に反旗を翻す人々
エルドアン首相は、イスラム回帰的な政策により求心力を得て10年も政権を維持してきた。しかし、最近ではアルコール販売の禁止が法案として可決されたり、イスラム教を冒涜したとのかどにより投獄される学者が出るなど、右傾化宗教色を強め、世俗派と言われる人達から批判が続いていた。それがオリンピック誘致の正念場となるこの時期に爆発したのである。
行き過ぎた宗教的な政策に「ハユル!」(嫌だ)を表明する人で埋め尽くされたタクシム広場では、人々に催涙弾が投げられ、放水車が威嚇する。立ち向かう反政府派の群衆の手には欧州や南米のスタジアムで見慣れた発煙筒が多数炊かれている。しかもデモの隊列で振られる旗や掲げられた横断幕はガラタサライやフェネルバフチェやベシクタシュのものだ。
デモのきっかけとなったタクシム広場の公園の取り壊しに続き、政教分離の政策でトルコを欧州化に導いた建国の父ケマル・アタテュルクの記念文化センターの改築も同じ敷地内で進められている。露骨な宗教回帰の政策に怒っているのはポリティカルな主張を常日頃している人たちだけではない。
ガラタサライ、フェネルバフチェに続く人気チームで、イスンタブールでは最古参のサッカーチームであるベシクタシュのホームスタジアムは、タクシム広場の丘から下ってものの10分程度。その目の前はすぐにボスフェラス海峡があり、波がたゆたう岸辺には壮麗なドルマバフチェ宮殿がある。
近世最大のイスラム帝国オスマン=トルコの皇帝はここで廃位させられ、そしてその後には酒飲みの脱イスラム主義者であり、現代共和制トルコの創設の父といわれるケマル・アタテュルクがここで政教分離した国家の執務をとることになった。さらにベシクタシュのホームスタジアム「イノニュスタジアム」の名前は、アタテュルク主義者で第二代大統領からつけられている。