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サー・アレックス・ファーガソンの奇妙な冒険〈番外編〉「彼はどこにでもいて、どこにでもいる」第四回

今季で勇退し、27年間にもおよぶマンチェスター・ユナイテッドでの監督生活に別れを告げたサー・アレックス・ファーガソン。彼の栄光の足跡と知られざる実像に迫る。

text by 東本貢司 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

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緊張のあまり試合を見れずゴルフ場に…

 アレックス・ファーガソンを招聘した当時のマンチェスター・ユナイテッドが、咽喉から手が出るほど欲しかったのが、リーグタイトルだった。なにしろ、あの「ミュンヘン」より10年後にチャンピオンズカップを制するその前年の1967年以来、どうやっても手の届かなかった悲願のトロフィーである。

 FAカップはその間、ファーガソン到来以前に三度持ち帰られている。そして、この最大最高の目標がようやく果たされるまでには、ファーガソン就任後から実に6年半を要したのだが、その喜びがもたらされた瞬間のエピソードは、これがまたファーギーにまつわる有数のトリヴィアとして今に語り継がれている。

 今からほぼきっかり20年前の1993年5月2日の午後遅くのことだった。そのときファーガソンは、マンチェスター郊外のとあるゴルフ場、その17番ホールのグリーン上にいた。ちょうどその頃、オールダム・アスレティックがアストン・ヴィラのホームに乗り込んでの試合がそろそろタイムアップを迎えようとしていた。

 ヴィラが敗れれば、その瞬間に26年ぶりの悲願のリーグ優勝が決まる。翌日のブラックバーン戦を待つまでもない。

 要するに、さしものファーガソンもオールダム-ヴィラ戦を観戦する緊張感に耐えられず、クラブ御用達のゴルフ場『モットラム・ホール』にふらっと“逃げ隠れた”のだった。

 心ここにあらず(?)のファーギーがパターを手に取ったちょうどそのとき、すぐ近くで突然急ブレーキの音が響き、続いて、砂利敷きの小道を踏みしめる足音がした。見ると見知らぬ男がこちらにやってくる。満面の笑みをたたえて。そして男は言った。

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