「スペシャリストだけど、ひとりふた役、3役をこなす。それが現代サッカーにおける優れたSBの条件です。ユベントスのリヒトシュタイナーやイスラは攻撃を組み立てられるし、エバートンのベインズもそう。CSKAのマリオ・フェルナンデスは長身でCBもこなせて、なおかつ攻撃力もある。長友のチームメイト、サネッティは左右両サイドに加えてボランチまでこなします。逆に言えば、それだけの能力がなければ、トップクラブのSBは務められないということでしょうね」
では、なぜ今、日本人のSBが欧州のクラブから評価されているのか。
「長友も左右ともに務められるし、前もできる。篤人はビルドアップ能力が高く、中盤もこなせる、酒井宏もSBだけでなくCBもできる。そうしたユーティリティ性が備わっている上に、日本人の真面目さも評価されているのでは? 献身的なプレーを厭わないし、監督の指示にも忠実。それは欧州や南米の選手と最も異なる点でしょう。こうした自己犠牲の精神と技術の高さを考えると、SBは日本人に向いたポジションだと思います」
欧州遠征で見えた長友と内田の特性
フランス、ブラジルと戦った昨年の欧州遠征でも、日本人SBの長所は随所に見えた、と名良橋は指摘する。分かりやすい例を挙げるなら、フランス戦の決勝点の場面だ。
「相手のCKからのカウンターでしたが、今野がこぼれ球を拾った瞬間、いち早く反応したのが長友と篤人でした。この場面、ふたりは、これは行けるぞ、と察知したんでしょう。ふたりとも迷うことなく駆け上がっている。このとき、追走してきたリベリにも走り勝った。しかも長友は87分という時間帯に、あの距離を全力で走りながら中央に折り返す冷静な判断をしたうえで、香川にしっかり合わせた。判断、スタミナ、スピード、精度、味方との連係……。素晴らしいゴールでした」
敵地で1-0の勝利を飾ったこのフランス戦では、長友の能力の高さや判断力の確かさを改めて確認できた、と名良橋はいう。
「押されていた前半は、攻撃陣がタメを作れず、対面のメネズも残っていたため、長友は攻撃を自重しています。無理して上がればやられるな、と判断したんじゃないでしょうか。そのため前半は、1対1での対応や絞ってのカバーなど、守備面での能力が改めて確認できました。一方、後半になると、対面がバルブエナに変わった。彼は中央にどんどん入っていくため、長友の前にスペースができて、ガンガン仕掛けて行った。右SBジャレとの1対1でも主導権を握り、3度もチャンスを作っている。後半は攻め上がりのタイミングや仕掛けの鋭さに改めて唸らされましたね」
そのうえで、87分に長い距離を走ってアシストを記録したのだ。敵将のデシャンが最も印象に残った選手として長友の名を挙げたわけである。