群衆の実態は大学生
延々とハイタッチが続いて、さらには鳴りやまぬ日本代表の応援チャント。そろそろスクランブル交差点のハイタッチ・フーリガンのみなさんにも話を聞いてみることにする。
まずは何回も何回も友達2人で手をつなぎながら交差点を往復していた女性(19歳学生)は開口一番「楽しい!!」と言うと、信号が変わったので再びハイタッチの群れに消えていく。うんうん、確かに楽しそうですよ。
「今日居酒屋で飲んでいたら、偶然試合がやっていて。その後これに加わりました」という大学生の男4人組みは、負けて楽しんでもいいのかという意地悪な質問にも「勝ったらもっと盛り上がれていたのに」と、答えにならない答えでポジティブシンキングを披露。
10人連れくらいの大学生グループは「気持ちいい。勝ったら、もっと盛り上がったんですけどね。もちろん渋谷がこうなるのは知ってて来ました」負けて気持ちいいっていうのは問題発言だろ! と思いつつ、試しにJリーグは好きか聞いてみたところ、意外にも即答で「好きです!」との反応。自分はこういう種類の代表サポーターはJリーグなんて興味ないだろうと予想していたからこれには少し驚いた。さらに聞いてみると、清水、札幌、マリノスと様々なクラブ名が出てくる。
もうひとつの大学生の男性グループは高校の同級生の8人組み。渋谷でこうなるのを予想してやってきたとのことで確信犯。なお、この人たちもJリーグは好きかという問いにそろって即答でイエスと答えた。好きなのは全員浦和レッズだそうだ。
きっと、ここにいる自称サポーターの人たちは、本当にスタジアムとかほとんど行ったことがないライトなサポーターなのだろう。なにせコアなファンやサポーターだったら、さすがに負けて楽しかったとは口が裂けても言えないでしょうから。負けたら渋い顔して苦々しく酒を口にしたり、家に帰ったらネットで監督や選手をボロカス書いてみたり、エスカレートすると選手バスを囲んだり、スタジアムに居残ってみたりするのがサポーターのデファクトスタンダードだ。
「スポーツバーで試合を見てから来ました」という5人組みは社会人と学生の混合チーム。「勝っても負けても盛り上がれていいですね」と笑顔で答えてくれた。彼らの一人はサンフレッチェ広島のファンだそうだ。次から次へとこんな声がかえってくる。
楽しんだ奴が勝ち
そうしているうちに、すれっからしのサポーターのワタクシでも、こう思わざるを得なかった。「勝っても負けても盛り上がれる」というのは確かに重要だよな、と。サッカーひとつでこんなに楽しんでいて、街中みんなニコニコしている。これでいいんじゃないかと。
そうだよな、日本のサポーターカルチャーは、あまりにしかめっ面すぎなのでは。むしろ負けてもハイタッチするくらいでもアリなんじゃねえかとも思う。渋谷スクランブル交差点の日本代表サポーターの諸君は発煙筒を焚いたりするわけでもなくバスを囲んだりヘンな横断幕を出したりするわけでもないんだし。
村上龍は自伝的青春小説『69 sixty nine』の中で主人公にこう言わせている。「一つ学んだ。暗く反省しても誰もついて来ない」そして「楽しんでいる奴が勝ちなのだ」と。
そんなわけで、日本代表がしっかり敗北した夜なのに、取材していただけのワタクシにも、こっそり楽しい勝ち組気分の一夜となったわけであります。
【了】