正しかった一歩目の選択、そして次のステップへ
ピッチ上にただ一人しかいないGKは、他のポジションよりもレギュラー争いが厳しく、市場も狭い。あれだけ外国人選手を歓迎するカタールでさえ、代表選手の育成を考慮してGKだけは自国選手、という規定を設けているほどだ。
加えて、小柄なイメージのあるアジア人選手は、GKとしての一般的な評判が高いわけでは決してない。
「だからこそ、なおさらベルギーリーグで海外でのキャリアをスタートさせることは、川島にとっては好都合だと思いました。ここはイングランドほど難しいリーグではない。ここでじっくりと成長して、次のレベルに羽ばたいてほしい」
前出のデ・ケウラーCEOの発言だが、川島がベルギーで成功している理由として、最初の一歩の選択が正しかったことも大きな要因だろう。
移籍交渉にあたった中心人物の一人、当時のスポーツ・ダイレクター、ヘルマン・ヘルピュット氏が、川島の入団に際して「日本代表のGKを獲得できるなんて、素晴らしい機会だ」と喜びを露わにしたように、アジア人GKに対する偏見を持たないクラブに迎えられたことは幸運だった。
また、トップリーグに返り咲いたばかりのリールセは、かつてのように、欧州カップ出場を狙えるレベルに復活することを目指していた。その彼らの上昇志向も、川島のビジョンにマッチした。
入団会見で川島は、「ベルギーリーグには、この後もっと上を目指そう、という大志を持った選手がたくさんいる。ステップアップのためにもここで頑張りたい」と語ったが、その言葉どおり、3年目の今季、アンデルレヒト、ブルージュ、ゲンクらと並ぶベルギーの強豪の一角スタンダール・リエージュへとステップアップを果たした。
新天地では、「GKに対する評価が国内でも特に厳しいこのクラブで本当にやれるのか?」という番記者たちの疑念をくつがえし、すでにサポーターのハートをがっちりとつかんでいるという。ヤンス監督も、「彼の順応の速さには驚いた。もう何年もいる選手のようだよ。加えて、彼のプロ精神は素晴らしい」と、またしても彼の「プロフェッショナリズム」を称賛している。
リエージュでは、開幕戦から第一GKに定着し、初戦は黒星スタートとなったものの次の古巣対決ではリールセを0-0で完封、3節ベヘレン戦では初白星をあげた。
しかし6節から4連敗となり、クラブは緊張した状態にある。
リールセにはなかったプレッシャーが、ゴールを守る川島の両肩にものしかかっているが、強豪クラブを生き抜く上では避けられない試練だ。
前出のヘルピュット氏は、日本人選手が海外で成功するための秘訣を、次のように語った。
「日本のスポーツマンには、規律正しく勤勉だというイメージがあるが、成功するカギは、この『勤勉であること』、これに尽きる。もちろん才能があることは大前提ではあるが、その上で、いかに努力するかが、選手を成功へと導くのだ」
ここで結果を残したとき、川島にはまた次なるステップアップが待っている。
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