磁力としての本田と香川
本田と香川は、言わば時代の申し子である。現代のサッカーを勝ち上がるためのプレーヤーだ。
彼らは敵と敵の間の、しかもごく狭いスペースでパスをコントロールできる。つまり、〝間で受ける〞能力が高い。この能力が重要なのは、基本的に前方へのパスはそこにしか受ける場所がないからだ。
80年代の後半から、サッカーはゾーンディフェンスが主流になっていった。ACミランが起爆剤となって世界へ普及した守備戦術は、21世紀に入るとどのチームにとっても当たり前のものになっている。コンパクトな守備ブロックはアタッカーから時間と場所を奪い、その中でどうプレーするかが課題になっていった。
その模範解答を出したのが、バルセロナでありスペイン代表だった。
コンパクトな守備ブロックの中では、どこをどう動いてもスペースは空かない。裏へ走ればオフサイドになり、横に動いても敵が並んでいる。そのかわり、ゾーンには必ず隙間がある。大きな空間はないかわりに、守備者と守備者の間には必ず小さな隙間がある。チャビやイニエスタを筆頭に、ゾーンの隙間にパスを出し、受けられる選手が台頭したことで、ゾーンディフェンスの崩壊が始まった。
ゾーンの隙間、つまり守備者と守備者の中間地点にパスをつなぐと、ゾーンの網の目は収縮する。縮むことで攻撃側の時間と場所を削りとるのがゾーンの性質だからだ。
ただし、全体が同時に収縮することはありえない。1ヶ所が収縮すると、その近くの守備者の間隔は必ず広がる。ボールに近い場所から、順番に収縮するだけなのだ。
すると、1ヶ所の〝間〞にパスをつなぐだけでも守備側の優位性は失われ、主導権は完全に攻撃側へ移行する。時間と場所を奪い、袋小路に追い込むはずの守備戦術は、時間と場所を奪い損ねることで、次のプレーで攻撃側により多くの時間と場所を提供せざるをえないからだ。
ゾーン崩壊の序章を飾ったのは、ジネディーヌ・ジダンだった。2~4人の敵の間でパスを受け、収縮させてボールを逃がす。ジダン1人だけでも、チームには相当な恩恵をもたらしていた。
現在のバルセロナでは、チャビ、イニエスタ、メッシ、セスクなど、ピッチの至る所でそれが行われている。
そして、日本には本田と香川がいる。
この2人は言わば人間磁石。敵の間でパスを受け、敵を引き寄せることで、ゾーンのブロックに穴を開けることができる。
隙間でパスを受けるときは、少なくとも2人以上の敵の動きを間接視野でとらえながら、タックルを予測し、的確にボールを逃がしたり隠したりできなくてはならない。
ボールをコントロールしながら敵の動きを感じる能力が高くなければ、ここでボールを受けることはできないわけだ。
アジリティの問題もある。適切なタイミングで受けるポイントへ動き、止まり、止まりながらコントロールして、また動く。コントロールの瞬間には脱力が必要だが、動いて停止して脱力して再スタートする運動を高い次元でこなすには、それなりの筋力やバランス感覚が問われる。
本田、香川のパスを受けるときの動作は、ぴたりとキマっていて、あまりブレていない。