システムの変更から流れを取り戻す
この変更で、起点を作られていた全北のサイドを抑え、完全に支配されていたセカンドボールの争いでは大谷と栗澤僚一が存在感を示す。立ち上がりはパスをつなげずに柏も大きく蹴り出す攻撃に終始していたが、栗澤が「下でつなげるようになった」と話す通り、ボランチから展開できる形が生まれ、前線にクレオと工藤がいることで前の収まりどころができ、徐々に柏が押し返していく。
さらに監督が指摘した「気迫」に関しても、このシステム変更を機に選手たちが戦う姿勢を取り戻す格好となった。球際の攻防、体を張った泥臭い守備など、気迫を感じさせるプレーが蘇り、体同士がぶつかり合うタフなせめぎ合いでも、フィジカル勝負を前面に押し出す全北に全く引けを取らなかった。
そして何より大きかったのは前半終了間際のゴールだった。左CKのセカンドボールを、ジョルジ・ワグネルが拾い、そのクロスに渡部がダイビングヘッドを決めて1-1とした。このゴールで柏はより落ち着き、最低でもあと2ゴールが必要になった全北は、リスクを冒しても前がかりにならざるを得ない。
スコア上ではタイでも、そういった精神的な部分で柏が優位に立った。そうなると柏はゲームコントロールをしながら、バランスを欠く全北の陣形の綻びを突いていけばいいだけである。
51分のワグネルの逆転ゴールも、浅い最終ラインに生じたオープンスペースでクレオが起点を作ったところから始まり、トドメの一撃となった69分の工藤のゴールもまた、手薄な中盤で大谷がボールを持ち運び、全北DFと駆け引きをしながら背後を狙う工藤へ、絶妙のスルーパスを供給した。前傾になった相手の裏を突く、狙い通りの試合運びである。
終盤に1点を返されたが、もはや大勢に影響はなかった。序盤の劣勢を修正し、アジア屈指の実力を持つ全北を術中にはめた見事な勝利。日本勢最後の砦としてベスト8に進出した柏が、初のアジア制覇に向け、大きく前進した。
【了】