「去る前に記録を更新できなれば、ファンに申し訳ない」
5月16日に発表された、フランク・ランパードの新1年契約。チェルシーのファンにとっては、前夜のヨーロッパリーグ優勝に匹敵する吉報だった。ドラマ性でも欧州制覇に勝るとも劣らない。
決勝での90分後には、土壇場の勝越しゴールがなくても延長戦があった。しかし、契約が残り1年を切って今季開幕を迎えた34歳には、9カ月後の契約延長はないと思われていたのだ。
今季限りを覚悟していたファンの焦燥感は、クラブの最高得点記録更新への執着心となって表れた。ベテランMFが、チェルシーでの通算得点数を200の大台に乗せた3月中旬以降、スタンドからは、ランパードがボールを持てば「撃て!」と一斉に声が上がった。
パスをもらった他の選手がゴールを狙おうものなら、シュートチャンスの横取りとばかりに、軽いブーングまで起こった。現役にして“レジェンド”のステータスを持つ、比類なき中盤の得点源には、せめて、歴代得点王として去ってもらいたかったのだ。
本人も、「4月頃までは今季が最後になってしまうと思っていた。チェルシーを去る前に記録を更新できなれば、ファンに申し訳ないような気がしていた」と、契約延長後にラジオ番組で告白している。
202得点の記録が塗り替えられたのは、5月11日のアストンビラ戦(2-1)。事実上、来季のCL出場をも決めた同点と逆転の2ゴールは、いずれもランパードらしかった。通算202得点目は、予てから「強化を意識している」と言っていた、利き足ではない左足によるミドル。
至近距離で合わせた203得点目は、ゴール前に侵入するFW顔負けのタイム感によるものだ。試合後、9年来のチームメイト、ペトル・チェフに肩車されたランパードが、 アウェイに駆けつけたファンの前で、両手を天に突き上げたビラパークでのシーンは、その4日後に優勝トロフィーを掲げた、アムステルダム・アレナでのシーン以上に感動的だった。