そもそも、その東京西部に根付くことすら簡単ではなかった。はじめ、プロサッカークラブ招致のために立ち上がった「FMC」と呼ばれる府中、三鷹、調布の3市はともかく、02年に練習場が移転してきた小平市で熱が高まるまでにはかなりの年月を要している。
01年から営業を始め、街のお祭りに出かけ、街頭にフラッグをつけてもらい、ポスターを商店会に配り歩き、1年後にようやくプロコンシャツを来てランドセルを背負っている子どもの姿を見たと高橋は言う。府中、三鷹、調布では当たり前の光景でも、当時の小平では驚くべき光景だった。02年の夏だった。開幕戦で鹿島アントラーズを相手に大勝した試合を観て高揚した気分で買ったのかもしれない。
1000人増加では成長にならない
劇的に変わったのは昨年だったという。ご当地ナンバープレート、住民票の改ざん防止用紙に東京ドロンパが採用された。
きっかけは、市役所の若手職員でFC東京を応援したいと思っている人々と知り合いになったことだった。クラブへの意見をメールでくれた職員に、高橋が会いに行ったことからつながったものだ。「1年のうち試合は20回くらいだけれど、選手は小平で300日くらい練習しているんですよ」と、小平市にはアプローチしてきた。市役所内で若い世代との接点ができたことで、ようやくその意味を理解してもらえた。観光課がない小平市において、FC東京を地域にとっての財産だと思ってくれている彼らは、実は市役所サッカー部のメンバーだという。
「さらに天皇杯での優勝が大きかったですね。今まで興味がなかったと思わしきおばちゃんが、『お正月(テレビで)見たよ、FC東京強いね』と言ってくれた。たくさんの方が見ている試合で勝つことが大事なのだと感じました。優勝したんだから応援しないといけないという機運が自治体にも芽生えたのかもしれません。
たしかに、優勝争いをすればお客さんは増えていくかもしれませんが、わたしたちの仕事はそれに任せたままではいけないと思っています。優勝争いなら前売りチケットが買えないくらいの状況にしないといけないし、勝ち負けに関係なくスタジアムに足を運んでくださるファン、サポーターで常に2万5000人なり3万人を集められるようにしないと」(高橋部長)
1年に一回だけ来る、あるいは初めて観に来るというライトなファンや新規のファンがいきなり年間チケットを買うことはない。そうした層はクラブサポートメンバーで吸収する。2口2000円を申し込むだけで観戦チケット1枚とタオルマフラーがもらえるうえに特典もつく仕組みだからだ。