揺るぎない育成手腕。来季は大型補強の可能性も
そして、06年開設のエミレーツ・スタジアム。6万人規模の入場料収入をもたらすホームへの転居は、建設費用返済による補強予算圧迫に理解を示す監督なくしてはあり得なかった。ベンゲルは、無理な補強予算を要求しないどころか、ほぼ毎年にように、移籍市場でクラブに収益さえもたらしてきた。
この補強スタンスは、ここ数年でメディアと一部のファンに疑問視され、セスク・ファブレガス、ロビン・ファン・ペルシーと主力放出が続いた過去2年間で、非難の眼差しを浴びた。しかし、その両名にしても、そもそもは、ベンゲルのサッカー哲学と育成手腕があってこそのアーセナル入りだった。
同じ事は、16歳で移籍したセオ・ウォルコットにも言える。アーセナルでは、スピードを生かしやすいウィンガーとして起用されてきた前サウサンプトンFWは、「機は熟した」と語る指揮官が、練習だけではなく、試合でも前線中央での起用を増やし始めた今季、初めて得点数を20点台に乗せた。
ウォルコットと同じく、今季中に長期の新契約を結んだ若手1軍レギュラー5名には、イングランド代表でも中盤の要と目される、ジャック・ウィルシャーも含まれる。
名指導者でもある指揮官は、「育てた選手に責任を持ちたい」として、少なくとも契約最終年の来季は続投の意思を公言している。パニックと無縁の知将は、「選手たちのクオリティを信じている」と言い続けながら、CL敗退時にはリーグ5位だったチームの精神面を立て直し、3位を狙える状況で5月を迎えた。
今夏の移籍市場では、異例の大型補強も見込まれる。クラブの銀行口座には、経営陣が「監督の判断なら予算化を惜しまない」という、「ベンゲル貯金」とも言うべき200億円規模の蓄えが眠る。まだまだ、「全知全能のベンゲル」への信心を失うことなかれ。
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