「遠藤には、彼のために水を運ぶ選手が必要」
――その通りかもしれません。話を遠藤に戻しますが、フィジカル面の問題でスプリントができなかったというのもあったのでしょうか?
「たしかに十分とは言えなかった。日本の選手も、フィジカルはもっと上げることが出来る。実際、長友佑都や内田篤人は、90分間スプリントを繰り返しているだろう。インテルやシャルケでは、そうでなければプレー出来ないからだ。加地や駒野もそうだ。そして世界最高の選手たちは、遠藤や憲剛たちよりずっとたくさんの距離を、1試合の間に走っている。
ただ、フィジカル・コンディションの問題はあったかもしれないが、3人とも速く走ることができなかった。遠藤にしてもプレーは熟知しているが、走りに関しては至って普通だった。他の選手たちが、彼らに走る必要を感じさせなかったからだ。周囲が彼らのために走り、走るのは彼らの役目ではないと思い込ませていた」
――そうかもしれません。
「プレーメーカーで才能のある選手たちには、彼らに水を運ぶ人間が必要だ。誰も望まない仕事(走ること)をして報われる選手だ。遠藤には、彼のために走る鈴木啓太が、代表では必要だった。ガンバなら橋本英郎(現ヴィッセル神戸)や二川孝広だ。遠藤が啓太にアイディアを与え、彼にパスを供給する。そして啓太が、彼の前や後ろを走る。必要とあれば、啓太が彼に代わって守備もする。お互いに欠けた能力を補完しあう、単純な計算の問題だ」
――それもコレクティブということなのでしょうか。守備は他の選手が補うから、遠藤や俊輔はもっと前に行けと。
「サウジアラビア戦(2007年アジアカップ準決勝)の2点目の失点を覚えているか。日本の左サイドを崩され、クロスを上げられヘディングを決められたシーンだ。ゴール前で阿部勇樹がうまく対応できず、相手がうまく詰めてゴールになったが、その前のプレーで遠藤が左サイドの守備に入っていた。
試合前に私は、名前は忘れてしまったがある選手に守備では遠藤を助けるようにと言っていた。相手のサイドバックがオーバーラップしたときは、遠藤は本物のDFでないから抜かれてしまう。だから彼をカバーして、常に2対1の状況を作るように指示していた。それならば抜かれないし、クロスも上げられない。
だが、それでも遠藤のカバーしきれないスペースを突かれ、クロスを上げられて失点した。普通ではあり得ないことだ。だから私は試合後、その選手を怒った。彼はしょんぼりしていた。私がこう言ったからだ。『私は君にひとつのことしか言わなかった。遠藤を守備で助けろと。遠藤も守備はするが、得意でないことは彼自身が一番よく知っている。彼は精一杯やったが十分ではなかった。相手はドリブルしてクロスを上げた。そこから日本は失点した。遠藤が守備に優れていたら抜かれることはなかったが、それは現実としてあり得ない。だから君がカバーすべきだったが、君はそれを怠った』
ツケはすぐに現実になった。そこには複数のミスが重なった。遠藤のミスとその選手のミス、それに阿部のミス。GKももっといい対応をして、相手のシュートコースを狭められたはずだ。だが1対2とリードされ、ゲームのコントロールを失ったのをはじめ、いろいろなものを失うことになった。私の見解ではそうだ」