“フロンターレらしい儀式”
当然だが、提案する側がいくら盛り上がっても、参加する側との温度差があればイベントは盛り上がらない。しかし、こういったクラブの提案する企画の意図を汲み取り、積極的に参加してしまうスタイルが、フロンターレサポーターにはある。
密かなこだわりを見せていたのが、参加者にプレゼントするアイテムだ。参加費用は1万円だが、今回は現場でかぶる特製ヘルメットを用意した。
「最初は『フロンターレつるはし』でも作ろうかって話していたんですよ。でも他に使い道がない(笑)。アメフトにピッツバーグ・スティーラーズというチームがあって、そこがヘルメットをグッズとして売っていると聞いたんです」
クラブカラーで彩られたこの特製ヘルメットには「川崎フロンターレ建設部」というロゴも入っている。参加者はこの特製ヘルメットをかぶって現場を探索した(特製ヘルメットの製作費・諸経費を除く金額は、等々力陸上競技場整備基金として使用される)。
置き場所にはやや困るアイテムかもしれないが、思い出深い一品になるだろう。なお、この「建設部」のように、気付いたら○○部が存在していることもフロンターレには何ら珍しくない。参加したサポーターも充実した表情を見せてイベントを後にしていった。
こうして“フロンターレらしい儀式”を終えて、思い出の残る旧メインスタンドは本格的な解体作業に入ってくこととなる。谷田部はあらためて多くの人に感謝の言葉を口にしていた。
「成功かどうかはわかりませんが(笑)、『フロンターレらしい』と言ってもらえたのが最高の褒め言葉かもしれませんね。今回も川崎市など様々な方面にこれを具現化するアイディアをサポートしてもらいましたし、推進する会のみなさんもたくさん動いてくれました。本当に感謝です」
復調を感じさせる試合内容
試合では、川崎フロンターレが4-2でベガルタ仙台を下し、7戦目にしてリーグ戦での初白星をあげた。特筆すべきは3-0のリードで終えた前半だろう。まるでこれまで自分たちを縛っていたものを”壊す”ような、圧巻の内容だった。
なかでも異色の出来だったのが、登里享平と田中裕介の両サイドバックである。レナトとの連係で再三に渡って左サイドの攻略し、攻撃の突破口を作り続けた登里は、手応えをこう語る。
「前半はすごくよかったと思います。レナトと僚太(大島僚太)の3人でうまく崩せていた。いつもはボールが出てから動く場面が多かったけど、今日は自分が動き出すと、イメージした通りにボールが出てくることが多かった。いい距離感でやれていました」
田中裕介も納得の表情だった。
「今日に関しては前半がすべて。前半は、相手が眠っていたような気がしたし、自分たちがそこをうまく突けたと思う。こちらが点を取ると相手も前に出て来るし、そこでのカウンターもうまく出来た」
開幕直後の大量失点もあり、チームはリスクマネジメントのために「後ろは必ず3枚残る」などと守備に軸足を置かざるを得なくなっていた。それで失点は減った反面、両サイドバックの大胆な攻撃参加がなりを潜めてしまっていた。
しかしこの試合では前線の選手達がうまく起点を作ってくれたことで、後ろ髪を引かれることなく攻撃に出て行くことができた。そしてボールを持つと、パスを選択するのではなく、ドリブルで運び、相手のエリアまで果敢に仕掛けていく。
昨年終盤のチーム好調時は何度も見られた、相手のエリアでも縦横無尽の動きを見せるサイドバックのプレーがこの試合に戻ってきていた。今後の復調を感じさせるよい兆しと言えるだろう。