【前編はこちらから】 | 【サッカー批評issue55】掲載
移民の多い地区でクラブが「人間形成」を掲げる意義
今回話をうかがったのは、ジュニア責任者のウルフ・ゼバ氏だ。現在61歳のゼバ氏は2008年からFCローセンゴードで勤務。ほかのクラブ関係者と同様、ゼバ氏も移民のバックグラウンドを持つ。生まれはスウェーデンだが、父親はイタリア人、母親はスウェーデン人だ。父親は第二次大戦後の1946年にスウェーデンへ移住し、母親と知り合ったという。
ゼバ氏は子どものころからサッカーを嗜み、現役時代はマルメFFやリンハムンIFといったクラブチームでプレー。引退後は1990年代にマルメFFの下部組織で7年間監督を務めるなど、おもに指導者として従事している。人脈が広く、たとえば1994年W杯米国大会で3位入賞に貢献した元スウェーデン代表ステファン・シュヴァルツ氏とは良き友人で、いまでも頻繁に連絡を取り合っているという。
貧困層が多く占めるローセンゴードの子どもたちにとって、一番人気はサッカーだ。サッカーが世界中で愛されているスポーツということを考えればそれほど驚きはしないが、その理由についてゼバ氏は以下のように話す。
「サッカーはお金がかかりません。たとえば、スウェーデンでサッカーと並んで人気スポーツの1つであるアイスホッケーを考えてみてください。防具など揃えなければいけないものがたくさんあり、非常にお金がかかります。それに対してサッカーは設備や道具にそれほどお金を必要としません。ローセンゴードには経済的に豊かな人は決して多くありません。彼らにとって、費用のかからないサッカーは一番人気のスポーツなのです」
また生活的に決して豊かでない子どもでも費用面をそれほど気にせずサッカーを始められる理由として、コミューン(自治体。日本の市町村に相当する)の援助を挙げることができるだろう。たとえばFCローセンゴードの場合、会員が支払う年間費用は年齢により異なるが、400クローナ(約4400円)から1000クローナ(約1万1000円)だ。この額はスウェーデンのクラブではごく平均的な数字だ。
なぜこれほどコストがかからないかというと、コミューンが各クラブチームに対して資金援助しているからだ。たとえば昨年9月、スーぺルエッタンに所属するエンゲルホルムFFが財政危機に陥った際も、エンゲルホルム・コミューンが借り入れというかたちでクラブを援助。2003年には、ヘルシンボリIFがやはり財政難回避のためにヘルシンボリ・コミューンから借り入れたことがある。