遠藤がプレー中に駆使する「眼」
プロチームは試合前に対戦相手のスカウティングを綿密に行っている。ただ、意外と外れることも多いそうだ。遠藤はあまり相手のことは気にしないという。いちおうフォーメーションや戦い方は頭には入れるけれども、結局はピッチに出てからが勝負というわけだ。相手が予想しない出方をしてきたとき、例えば変則的なフォーメーションを組んできたときに、それがわかるまでにどのぐらいの時間がかかるのか。
「5分、かかっても10分ぐらいですかね」
これは記者席で試合を見ている取材陣と、ほぼ同じタイミングといっていい。この鳥の眼とともに、瞬間的に状況を切り取って分析する思考回路が独特だ。
2012年のJ1第2節、セレッソ大阪戦。遠藤保仁の凄みを改めて思い知らされたシーンがあった。
34分あたり、G大阪が攻め込みかけたところでボールを失い、C大阪が攻め返すが清武弘嗣のワンタッチパスは少しブレてミスパスになる。ボールは遠藤の目の前に転がってきた。相手が攻撃している最中だから、遠藤とすれば自分のところにボールが来るとは予測していない。ところが、彼は躊躇なくダイレクトでそのボールを蹴り返し、それは40メートルものラストパスになったのだ。
敵味方の入り乱れる中を低い軌道で抜けたパスは、全力疾走のラフィーニャへピタリ。そのままペナルティーエリアに突入したラフィーニャのシュートはGKに阻まれてしまったが、パスカットがそのままロングスルーパスという鳥肌もののシーンだった。
「あれは自分でもパーフェクトというか、満足できるパスでした。コース、タイミング、左利きのラフィーニャに合ったボールというのも含めて、すべて上手くいったパスです」
驚くのは、清武の足下をボールが離れて遠藤の前に来る2秒間に、遠藤に見えていたものだ。
「パッと見たら、ラフィーニャがこっちを見ていて、ほしそうな顔をしていたんですよ。自分がフリーなのがわかっていたみたいで。それでダイレクトで出そうと決めました」
ラフィーニャの顔を見ていた。この瞬間、ラフィーニャは遠藤から一番遠くにいる味方である。遠くから見る、はっきりと見る。遠藤は自ら語っていたとおりに、最も遠い選手の表情を一瞬でとらえている。ダイレクトで蹴ったのも遠藤らしい。
「ああいうときに止めてしまうと、それだけ相手も準備できるんですよ。出しますよ、という感じになっちゃうので。だから、出さないよという雰囲気にしておいてダイレクトで出した。そうすると必ず相手の反応は遅れます。コンマ何秒なんですけど、それがけっこう大きい」
整理してみる。まず、C大阪の清武のパスがミスになって遠藤の前に流れてきた。その間、約2秒。ボールにタッチする前に遠藤は状況を確認する。遠くを見る、ラフィーニャの準備ができていることを確認する。
遠藤は、ラフィーニャの表情を見てパスコースを決めたと言っているが、実はこれは最終確認にすぎない。ラフィーニャへのパスが大きなチャンスになることは、たぶんあらかじめ知っていたと思う。あらかじめといっても、コンマ数秒の違いかもしれないが、表情を見てアイデアを決めたわけではなく、ラフィーニャの準備ができているかどうかを確認しただけなのだ。
「眼」の他、「術」や「戦」についても観戦やプレーの参考にしていただけることを願っております。
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