昨季はまったくパスをつなげないチームだった富山
「11対11にこだわるのではなく、こちらが一人多い12人でプレーしているように相手に見せるためには、どうすればいいのか。まず運動量が必要になりますよね。そして選手をどこに配置すればそう見えるのか・・・」
11人ではなく、12人でサッカーをやっているように相手に見せる。こんな発想でサッカーをしようとしている異端者が日本にはいる。それも、Jリーグという舞台で。
現在J2リーグのカターレ富山を率いている安間貴義監督である。
2010年のシーズン終盤にヘッドコーチから昇格する形で監督に就任。指揮官としては3年目となるシーズン開幕を迎え、今季の第7節終了時点での順位は3勝3敗1分の12位。まずまず順調なスタートを切っている。
ただ昨年は最終戦まで残留争いをするなど、最後の最後まで苦しいシーズンを過ごした。データに目を向けても、昨シーズンのカターレ富山はクリア数の一番多いチームであり、さらにパス成功率もJ2の中でワースト1位を記録。つまり、クリアが多く、パスはつなげないチームだったというわけだ。
実際の試合でも、3バックの中央にいるヘディングの強い福田俊介(現在:大宮)が相手の攻撃を自陣ゴール前で跳ね返し、拾ったボールを前線に目がけてロングボールを蹴り続ける、典型的な”弱者のサッカー”だった。
ところが、今シーズンになるとそのスタイルが一変。
ボールを持つと、小気味よくショートパスをつないでいき、中盤での流動性と推進力を打ち出すサッカーを展開。昨年とは見違えるようにテンポよくパスがつながり、ボールもスムーズに動いている。データを見てもその変化は一目瞭然で、昨季は386本だった1試合平均のパス本数が、今年は475本(第7節終了時)。
つまり、昨年よりも一試合中につなぐパスが100本近く増えているということだ。その変貌ぶりに、第4節Vファーレン長崎戦の試合後には敵将・高木琢也監督が「どうやったらあんなにボールが動くんですか?」と安間監督に聞いてきたほどだったという。
指揮官が変わったわけではなく、チームの軸となる選手もほとんど替わっていない。にもかかわらず、なぜそんな“魔法”のような変化が起きたのか。