『サッカー選手の正しい売り方 移籍ビジネスで儲ける欧州のクラブ、儲けられない日本のクラブ』
著者:小澤一郎
採点:☆☆☆★★★
(カンゼン・1600円+税)
「世界の中で生き抜く日本人としてのありかたを模索する」と題したまえがきからして名文である。構えが冷静で客観的、しかも情熱の炎がどこかで燃えている。その冒頭の記述からしてショッキングで、Jリーグの優勝賞金2億円がインテルへの移籍によって長友佑都がFC東京にもたらした金額に近いことが知らされる。
本書によると、「移籍金」とは「移籍補償金(違約金)」のこと。感傷的になりやすい日本人のメンタリティーは美徳のひとつだが、クラブ経営における目下最大の課題といわれる「0円移籍」の解決を難しくさせる負の一面も持つようだ。
スペイン通として知られる著者は清水エスパルスの会長や選手エージェント(代理人)への取材を通じて、移籍ビジネスでの克服すべき点とこれからのあるべき姿を詳述していく。失敗例だけではなく、内田篤人のときに奏功した移籍スキーム(計略)についても過不足なく綴られる。
「サッカークラブの経営、サッカービジネスの世界ではサッカー界のみで生きてきたサッカー人や、逆にサッカー界とは無縁でビジネスの世界だけで生きてきたビジネスマンでは成功しにくい」──の箇所などは俗耳に入りやすい言葉でないだけに重みがある。
小澤の姿勢の根幹にあるのは「欧州礼賛主義」ではなく、「サッカーの力で日本を変える」思い。二言めには「(ブランド力のある)○○では」を言って自分までえらくなった気になる俗物はかつて“出羽(の)守”と揶揄されたものだが、単純比較の誘惑に簡単にはまらないのがこの本、この著者ならではの正しい資質(ライトスタッフ)のようである。76点。
(取材で頻繁に欧州に行くのは、「追いつく」ためではなく、「追い抜く」ためのヒントを得るためと宣した著者は「大あっぱれ!ですよ」)
【了】