極端にいえば、攻撃する気がないチームだった
W杯バージョンで「日本らしい」のは、忠実な守備組織だ。W杯3週間前までの日本の守備は、基本的に前線から早くボールへプレッシャーをかけて相手にボールを放棄させるやり方だった。ボールを保持して押し込んだ状態から守備を始める機会が多いので、そこでボールに近い選手が早い切り替えで守備に入り、後方はマンマークに近い形で相手をつかんでいた。
一方、W杯ではまず全員が自陣に戻り、スペースを埋めるところから守備が始まっている。相手が自陣に入ってきたらボールへプレッシャーをかけ、全体をボール方向へ移動させて2対1の数的優位を作る。かわされたら素早く修正する。
ゾーンを埋め、ポジションを修正し、相手にスペースを与えない守備組織の緻密さに関して、日本は参加国中でもハイレベルのクオリティを示した。このスタイルに変更してから3週間とは思えない仕上がりだった。
守備組織に関しては「日本らしさ」が発揮されていたといえる。日本人自身は意外と気づいていないのだが、ゾーンの守備組織の構築に関しての能力は非常に高いのだ。
高校年代からポジショニングや修正を叩き込まれていて、律儀にそれをやり通すディシプリンの高さは、しばしば外国人コーチを驚かせるのだが、日本人はそれが当たり前だと思っている。W杯で日本が短期間に守れるチームに変貌したのは、Jリーグでああいう守備組織の構築に慣れていたからだろう。
方針が決まったときの足並みの揃い方も日本人らしかった。実際には、追い込まれた末の選択であり、W杯での戦い方において残された最後のカードだったと思う。だが、もうほかに選択肢がないという状況だからこそ、結束しやすかったのかもしれない。
ただ、W杯16強の快挙を成し遂げたチームは今後のモデルにはなりにくい。
まず、守備は強かったものの、攻撃力が不足している。それも当然で、極端にいえば攻撃する気がないチームだったからだ。