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香川真司 12年前

“黒子”としてのトップ下。香川真司がユナイテッドで見せた成長の証とは?

text by 植田路生 photo by Kazuhito Yamada

前でも後ろでも、攻撃の起点になった香川

 この日、いい意味でも悪い意味でも目立ったのはエースのファン・ペルシー。前半27分、左サイドの深い位置でボールを受けると、ドリブルでエリア内へ侵入。強引に左足で放ったシュートはDFへ当たったことでGKの手をすり抜け、ゴールマウスへ吸い込まれた。

 FWとしてのエゴが活きたプレーだが、良かったのはこれプレーくらいで、あとは空回りのプレーに終始。ファーストディフェンダーとしてのチェックが甘く、攻撃面でも味方を活かす意識がまったくない。

 特に最悪だったのはゴール前で香川がいい位置にいるにも関わらず、わざわざかぶる位置に入ってくることだ。例えば、香川がニアでDFとの距離が少しある絶妙の位置にいるときに、そこに入ってきてしまう。セオリーであればファーに行かなければならないのだが、香川とかぶる位置に、しかもDFを2・3人引き連れて入ってくるために、チャンスをみすみす潰した。勝利したからいいものの、負けていれば戦犯扱いになったはずだ。

 それでもこの日の香川はエゴを捨て、味方を活かすプレーに終始。唯一香川を見ていいタイミングでパスをくれるキャリックからクサビが入ると、左右への展開、ファン・ペルシーへのラストパスと攻撃の組み立てに注力していた。また、なかなかパスをつなげない状況では下がってボールを受け、低い位置から起点になろうとしていた。

 守備面でもファン・ペルシーがサボっているのをカバーするかのように前線からプレスを仕掛け、何度かカウンターでチャンスを作りかけた(エースがそのチャンスを潰してしまったわけだが)。香川のような選手がいなければ、さらに攻撃が単調になっていた可能性は否めない。

 香川はユナイテッドに移籍してから活躍が目立ったのは周囲に“活かされた”ときだ。例えばハットトリックをした試合はルーニーに活かされた。もちろん活かす、活かされる、どちらでも輝ける選手ではあるが、この日見られたのは100%周囲を活かすプレー。

 ルーニーを欠き、誰かが黒子に徹しなければチームが機能しないときに、その役割を担うことができる。何事も無く勝ち点3を積み上げた試合にあって、新たな一面を見せた香川真司。マンチェスター・ユナイテッドというビッグクラブの中で、日本のエースは着実に成長を遂げている。

【了】

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