サッカーで生活を変えようとするビエルサ
――哲学は変わらないと。
西部 根本のところはアヤックスもバルセロナもビエルサも、だいたい一緒ですよ。バルサも勤勉なんだけど、それよりも勤勉。休まないサッカーですから。自分たちもつらいけど、相手ももっとつらい。
清水 サッカーは、相手が働いていたら、自分たちがサボるわけにはいかないっていうところが、面白いですよね。
西部 1つ言えるのは、すごく攻撃的だということ。点を取るためのサッカーですよ。リスクがあるのは、目に見えてますから。「守備をしっかりさせてから、失点をなるべく防いだ上で、点を取りましょう」っていう話じゃないですから。なるべく多く点を取るようにして、できる範囲で守りましょうっていうサッカーです。
結局「それをお客さんが見たがっている」っていう信念があるんでしょう。実際に彼がそういうサッカーをやることによって、ビルバオのメンタリティが変わったって言うから。街の人たちも、勇気を持って「自分たちもやればできるじゃん」って。こんないいサッカーができるんじゃないかみたいなって、街の人の意識も変わった。タイトルを獲るということももちろんそうなんだけど、サッカーをすることで人々の生活を前向きにしていくと。
――すごい。
清水 そこまで考えていたか。
西部 そうだと思うよ。ある意味この人はリベラルなタイプ、アルゼンチン社会の上層階級出身なんだけど、自分たちが豊かになるというよりも人々を導いていく役割と使命感を叩きこまれた人なんでしょうね。それが医学とか法律に行かないで、サッカーに行っちゃった(笑)。
清水 そこが変奇人なのかもしれないですね。
西部 勝とうと思ったら、変な話このサッカーはないと思う。
清水 しかも、ビルバオの選手を見てのサッカーだと。
――勝つというよりも、人々に勇気を与えるには十分ですよね。
西部 休まない、攻撃的、クリエイティブ……。すごく一生懸命なサッカーですよね。流して終わらせるってことがない。それが体質的にできないサッカーです。相撲で言えば、つっぱりしかやらない人っているじゃないですか。ずっと同じリズムで潰すというか。
清水 割と後半でやられることも多いかなって思うんですけどね。
西部 息切れするよね。あとは、選手の交代があんまりうまくないイメージがあります。代えれば代えただけ悪くなるというか(笑)。
――采配で変えるのはなかなか難しい?
西部 僕が見た範囲だと、あんまり当たっている感じがない。とにかく、最初のプランが一番良くて、どんどんどんどんしぼんでいく感じ。
――ある意味、一貫性がありますよね。
西部 何か隠し球を忍ばせておいて流れの中でポンっと出して、っていうのはあんまりないですね。一番いいチームを最初に出して、選手を代えれば代えただけ弱くなると(笑)。選手層が厚ければ違うかもしれないですけど。すごく面白いとは思います。
【了】
プロフィール
西部謙司(にしべ・けんじ)
1962年生まれ、東京都出身。95年から98年までパリに在住し、ヨーロッパサッカーを中心に取材。近著に『FCバルセロナ』(ちくま新書)などがある。
清水英斗(しみず・ひでと)
1979年生まれ、岐阜県出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。主な著書に『サッカー「観戦力」が高まる』(東邦出版)がある。