マークされている味方にもパスは出せる
マークされている前方の味方の足下へ、いわゆるクサビのパスを入れるとき、遠藤が見ているのは主に敵のほうだという。もちろん前提になっているのは、マークされている味方にもパスは出せるということだ。マークされているからパスを出せないとは全く考えていないという。
「日本人だけかどうかはわからないですけど、敵にマークされていたらそこへパスを出さない傾向がある。僕は出していいと思ってます。敵のいないほうの足に出せばいいだけなんで。パスを出したとして、その後の展開も見えているときは、マークされていてもお構いなしに出しますね。敵の届かないところへ“きれいなボール”を出せば、足出せば止められますから。マークされているかどうかを問題にする人もいますけど、僕はそんなことはあまり考えなくてもいいと思ってるんですよ」
マークされているかどうかでなく、パスが通るかどうか。通ると思えば、躊躇なく出す。“きれいなボール”という表現が遠藤らしいと思った。たとえ味方がマークされていても、敵の届かない場所にパスすればいい。そのとき、彼はむしろ敵を観察しているわけだ。遠藤がクサビのパスを出すとき、わざとひと呼吸遅らせることもよくある。
「ああ、それは完全にタイミングを外しにかかったときですね。DFがパスカットを狙っているのがわかるので、わざとひと呼吸遅らせる。そうすると、“来ないの?”という感じで一瞬動きが止まるんです。そのときに味方が少しでも動いていれば、DFとの距離が開くので十分パスを入れられる状態になるわけです」
ところで、本当に訓練すれば「公園で揺れているブランコ」が右から何番目かが言えるようになるのだろうか。
「意識すれば、たぶん誰でもできるんじゃないでしょうか。例えば、毎回公園で質問されれば、誰でも注意して見るし、答えられると思うんですよ。忘れたころに聞かれるから、わからないだけで。ですから、いつも意識して見ていればいい。ずっとそれをやっていると、そのうち意識しなくても見るようになるんです。もう今となっては、試合中に意識しなくてもいろいろ入ってきます。急にボールが来たとして、それが予想外でも対応できるようになります。右を見ていても、左の状況がわかる。勝手に入ってくる感じです。それができると、とっさのときでも先手がとれるんです」
本書では、この他にも遠藤選手のゲームメイクについて話を聞いています。よろしければ、『眼・術・戦 ヤット流ゲームメイクの極意』をお手にとって、ご一読下さい。