メッシがフィジカルコンタクトに強い理由
地面を蹴って走るイメージが強い人には、『上半身の力が主導して進む』という感覚は言葉だけでは分かりづらいのではないかと思う。その場合はいったん、この記事を読むのを止め、メッシになったつもりで動きを実践して頂きたい。足の力を抜いて胸でリズムを取り、上半身主導で左右へ実際に体を動かしてみると……メッシのイメージがつかめただろうか。
柔性の選手の『ゼロ・ポジション』の作り方はさまざまだが、剛性の選手に比べると、プレーを変化させられるタイミングが多いのが特長だ。例えばC・ロナウドなどの剛性の選手がパスを出せないタイミングで、メッシは自由にパスを出せる。そういう柔性の選手を多数そろえたチームがバルセロナであり、チーム全体が柔性のリズムを作り出しているのが長所になっている。
「メッシはシュートに関しても同様。ドリブルの体勢から打つときは打つ。打たないときはゼロ・ポジションに戻す。メッシはバックスイングをしないが、体を沈み込ませるときの重さをボールにぶつけているので、小さな動きでもパワーが出る。キックの力の生み出し方はいろいろあるが、メッシの打ち方はドリブル姿勢のままシュートに行けるのが特徴だ」
さらに吉澤氏は、メッシのフィジカルコンタクトの強さにも言及する。
「メッシは当たりが強いと言われるが、その本質は、体が小刻みに振動しながらコマのようなイメージで相手とぶつかっていること。力点がぶれるので、相手は真っ直ぐ体をぶつけることができず、メッシにはじかれてしまう。生きたカツオを持ち上げるのが難しいのと同じ原理だ。動きが止まっていれば容易に持ち上げられるが、バタバタと振動されていると力点をずらされて持ち上げられない。メッシの当たりが強いのはそういう理由」
このようなメッシの体術をマスターせず、ボールタッチの細かさだけを真似しようとしてもうまくいかないだろう。ただ単にタッチが細かいだけでなく、メッシはそのたびに上半身の筋肉で『ゼロ・ポジション』を作り出している。それが変幻自在なドリブルの最大のポイントである。
初出:欧州サッカー批評6