タイトル:『なでしこ つなぐ絆 夢を追い続けた女子サッカー30年の軌跡』
著者:砂坂美紀
(集英社・1200円+税)
採点:☆☆☆★
1997年から女子サッカーの取材を始めた著者にも14年の労苦が報われるときが来た。それがこの平易な「日本女子サッカー史」ということになるのだろう。草分け的存在の仕事には、カメラマンの早草紀子さんの『なでしこの教え』(武田ランダムハウスジャパン)のような本もすでにある。
黎明期を知る者同士ならではの女子代表選手たちとの友情はたぶん一生ものになるはずだ。先乗り特権に転化したとはいえ、しかしその立場はなかなか難しい。斯界の功労者扱いはされても、新規参入者はどんどん出てくる。自分だけが取材した伝えるべき事柄という使命感の出し方が難しい。
「掲載雑誌が見つからず、取材活動費を捻出できずに借金をして海外へ出かけたことだって何度もある」(序章)の「だって」は、「が」でもよいのではないか。ダンディズムやハードボイルドを意識した痩せ我慢のほうが性差とは無関係にカッコがよい。
にもかかわらず、この本の資料的価値は保証されたようなもの。女子サッカーに関する本は、物珍しさから礼賛の時代、更には省察の時代へと進むだろう。現時点では公式ジャーナリズムに近い普及啓蒙レポートの先にある次のステップが気になる。文学との相互浸透なのか、あるいはまた通俗化へと向かうのか……。
功労者砂坂美紀の単著でのデビュー作はフェミニンな装丁で、マニッシュ装丁慣れした男性読者にはちょっと辛いところがある。64点。
(「つい半年前までは、他に質問者がいないため、“囲み取材”が実質“単独インタビュー”ということも多々あったというのに」――の箇所で、昔の男子日本代表を思い出しました)
【了】