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バルサキラー、ファビオ・カペッロが語るFCバルセロナ攻略法。(前編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada

彼らを倒すのは至難の業だが、だからこそ挑む価値がある

 あのクライフの言動はミラン選手全員の闘争心に火をつけ、試合に臨む我々はアドレナリンを沸騰させていた。一発勝負において命取りと言うべき過ちを犯していたクライフは、しかし決勝のピッチに立ってもなおその過ちに気付いてはいなかったようだ。つまり、“精神面”でミランはキックオフの瞬間からバルサを圧倒していた。

 また、もちろん我々は技術面でも準備を怠ることはなかった。いかなる状況にも対処できるだけの術を周到に整えていた。結果として、バレージの穴は当時まだ若かったクリスティアン(・パヌッチ)が見事に埋め、その横ではベテランDFのフィリッポ(・ガッリ)が、さすがは対人マークのスペシャリストと呼ばれた男だ、“マンマーク”でロマーリオを完璧に封じていた。

 また、DFラインの前ではデサイーが分厚い壁として立ちはだかり、あの天才肌の(ズボニミール・)ボバンも含めた攻撃陣が文字通りの“猛烈なプレス”でバルサのパス網を寸断し、何よりもバルサの頭脳(MF陣)から考える時間を奪っていた。と同時に、サイドではドナドーニと“ジェニオ(Genio=天才の意。サビチェビッチの愛称)”が苦もなく敵陣深くまで進入し、セルジの上がりを徹底して押さえ込んでいた。

 よって前半を終えた時点で2-0。両方ともマッサーロのゴールだが、1点目がジェニオのアシスト、そして2点目は左サイドを深くえぐったドナドーニからのアシストであるという事実が、いかに我々の策が奏功していたのかを雄弁に物語っている。

 史上最も華麗で強いと言われたチームを、退屈な守備のチームと酷評されていたチームが4?0で粉砕するという実に興味深い一戦であり、サッカーとは単に技術だけで勝敗を決する競技ではないということを証明してみせた一戦でもあった」

――つまり、仮に技術面だけに焦点を当てれば、あのミランが採った策こそが今日の対バルサにも有効だと言えるのでしょうか。2年前のモウリーニョはインテルで、まさにイタリア的サッカーを全面に出す形でバルサを倒しています。

「とにかく、私が94年に採った策であれ、あるいは2年前にモウリーニョが見せたサッカーにしても、それが対バルサで通用するのは、あくまでも一発勝負の場合に限る。長いリーグ戦でバルサを上回るには、そこに無数の要素が絡んでくるだけに、当然のことながらまた別の策が数多く必要になる。しかし、やはりだからこそ面白い。彼らを倒すのは至難の業だが、だからこそ挑む価値がある」

【後編に続く】

初出:欧州サッカー批評4

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