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Jリーグ 12年前

浦和レッズは本当に生まれ変わったのか? ~常勝クラブとなるために必要なこと~(後編)

text by 島崎英純 photo by Kenzaburo Matsuoka

監督への放任が生む危うさ

 思いがけない躍進によって迷いも生じたが、12年シーズンの浦和は総じて順調にチーム構築を進めたと思う。クラブサイドと現場サイドは双方の思惑を加味しながら適切に稼働したと思われ、来季ACL出場権獲得によって来季の営業収益にひとつの目途も立った。また現在のオフシーズンの動きも活発だ。

 12年12月の時点ですでにDF森脇良太(広島)、MF関口訓充(仙台)という日本代表経験者の獲得が決まっており、彼らのポジション適正はミシャの考えるサッカースタイルともしっかり符合する。しかも森脇、関口はともに前所属クラブとの契約を満了してから浦和へ移籍することで移籍金が発生しない。経費削減策を推し進めるクラブ側としては願ったり叶ったりの効果的補強だ。

 ただ、中長期的な観点では大きな懸念がある。前述した通りミシャは当初クラブの『サードチョイス』で、現在指揮官が進めているチーム構築策はクラブ側が自発的に思い描いた“絵”ではない。

 ミシャのサッカースタイルは独特で奇抜で、もし彼が退任した場合、それを引き継ぐ継承者の目途が立たないし、特殊な能力を有する浦和の既存選手たちが新たなサッカースタイルで十全な力を発揮できるかも未知数だ。それは広島から浦和に移籍してからの2年間苦しみ続けた柏木のプレーパフォーマンスを見ても窺い知れる。

 またトップチームの下地となる存在であるはずのアカデミー組織では現在ユース、ジュニアユースともにミシャのサッカースタイルを踏襲したチーム構築を行っておらず、それぞれのチームはそれぞれの指導者の下で強化が図られている。しかも12年シーズンの浦和ユースは高円宮杯U-18プレミアリーグで9位に終わり、来季は下部リーグであるプリンスリーグへの降格を余儀なくされている。

 現在の浦和はレッズ=ミシャで結ばれているが、ミシャが指揮官の座を辞すればその公式が成り立たなくなる。上昇曲線を描き、未来への期待値が高い昨今でありながら、クラブ側からの明確なビジョンがなく現場の指揮官任せの現状は危うさを秘める。

 適切で緻密なクラブ主導が図れない浦和は、今もまだ、ピンと張られた細いロープの上をジリジリと渡っている。

【了】

初出:サッカー批評issue60

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