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稲本潤一が超えてきた日本人の壁 ~海外でプレーする選手に求められること~(前編)

text by 戸塚啓 photo by editorial staff

アーセナル移籍は断る理由がなかった

――最初に所属したクラブはアーセナルでした。リーグの下位から中位、中位から上位といったステップアップ型の移籍が一般的ななかで、いきなり欧州屈指のビッグクラブへ加入しました。

「王道とは逆パターンですけど、断る理由がなかったですから(笑)」

――それはもっともです(笑)。

「試合に出られないマイナスはあったけど、良かったと思ってます。日本人が、一番強かった時代のアーセナルへ行くこと自体が凄かったと思うので。欧州での自分のキャリアの原点になってますね」

――香川真司のマンチェスター・ユナイテッド入りに負けないぐらいのインパクトがありました。稲本選手が加入1シーズン目のアーセナルは、リーグとFAカップのダブルに輝きました。

「そう、ですね(笑)。確かにメンツは凄かった」

――僕も練習を観に行ったことがありますが、まあホントに錚々たるメンバーでした。

「だんだん記憶がなくなってきているんですけど、凄かったのひと言に尽きます。僕はそれほど海外のサッカーを観ていなくて、情報を持っていたわけじゃないから、度肝を抜かれたのは覚えてます」

――凄さを具体的に表現すると?

「僕自身はガンバでも代表でも当たり前のように試合に出て、そのなかでいいパフォーマンスを続けることができている時期でした。すごく自信を持って、アーセナルへ移籍してるんですね。できるんじゃないかと思っていたけど、まったくレベルが違うというか……、そこまでの違いではなかったですけど、すべてがハイクオリティでした」

――コミュニケーションは?

「最初は英語もできず、練習と並行して勉強をして。初めの数ケ月間は、クラブハウス内だけ通訳がついてくれました。英語はまあ、慣れていけばそこまで大きな問題ではなかったですが、初めてのクラブ、初めての海外移籍ということで、多少の戸惑いはありました」

 当時のアーセナルには、オランダ代表のデニス・ベルカンプ、フランス代表のティエリ・アンリ、ロベール・ピレス、パトリック・ビエラ、スウェーデン代表のフレディ・リュングベリ、イングランド代表のソル・キャンベルら、世界選抜と言ってもいいタレントが揃っていた。21歳にして歴史ある赤いユニホームを着た稲本が、気後れを感じても不思議ではない。

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