スポルティングSDを釘付けにした松井大輔
2010年8月15日、男は期待に胸をふくらませながら、「ラディソン・ブル・ホテル」に投宿していた。ポルトガルの首都リスボン北部に位置するホテルは、「ジョゼ・アルヴァラーデ」スタジアムの目と鼻の先にあり、その男は、そのスタジアムをホームとするポルトガルの強豪クラブへの入団発表を翌日に控えていた。
ワールドカップイヤーの2010年、年明けから岡田武史監督率いる日本代表は振るわなかった。W杯までのテストマッチ10試合で、3勝2分け5敗。W杯出場国との対戦では5戦全敗で、開幕直近の4試合では4連敗。岡田監督の進退伺い問題にまで発展し、日本代表には激しいバッシングの嵐が吹き荒れていた。
しかし、南アフリカでW杯が開幕すると、ネガティブな状況は一変する。グループEの開幕戦、「日本対カメルーン」の試合で前半39分に本田圭佑のゴールで日本が先制、この虎の子の1点を守り切って日本代表は、ポルトガル人主審のオレガリオ・ベンケレンサの“勝どきのホイッスル”を聞くこととなる。
そして、日本に海外でのW杯初勝利をもたらした本田の決勝ゴールをアシストしたのが松井大輔だった。右サイドで遠藤保仁からのパスを受けると、対峙するカメルーンの左SBのアス・エコトをワンフェイントでかわし、利き足とは逆の左足で上げたファーサイドへのクロスこそが日本勝利の呼び水となったことは間違いない。日本の沈滞ムードを払拭するに余りある値千金のプレーの発端は、松井の左足から生まれたのである。
このW杯の試合で、右サイドを幾度となくドリブルで駆け上がり、精度の高いクロスを上げ続けた日本の背番号「8」のプレーに釘付けになった人物がいる。当時、スポルティングのスカウティングを統括するSD(スポーツディレクター)の職にあったカルロス・フレイタスである。