彼の言葉を信じてはいけない
現在、バートン絡みで盛り上がっている話題の一つは、QPRから4部のフリートウッドというクラブへのレンタルに出されるという説だ。昨シーズンの最終節で、バートンが退場になったことは先に述べた。この際、彼はセルヒオ・アグエロなどにも暴行を働いたため、12試合の出場停止処分を科されている。出場停止処分を少しでも早く消化できるようにするために、QPRが試合数の多い4部リーグに貸し出すのだという※。
ただし一方では、監督のマーク・ヒューズがほとほと愛想を尽かし、放出しようとしているのだという噂もある。どのみち、馬鹿げた振る舞いをして墓穴を掘った選手に、毎週8000ポンドも払う奇特なクラブはないだろう。
(※編集部注:2013年2月現在、バートンはフランスのオリンピック・マルセイユにレンタル移籍している)
もう一つの関心事はやはりツイッターだ。今やフォロワーは160万人を超えている。その原動力となったのが、ニーチェなどの引用だったことは言うまでもない。記者たちの中には、バートンの背後にプロデューサー役の人間が控えていて、アドバイスを与えているのではないかと勘ぐる者さえいる。
真相を知っているのはバートンだけ。だが一つだけ確実なことがある。それは彼が、意図的に様々な話題を作ろうとしていることだ。
「俺は有名になって気持ちいいなんて感じたことは一度もない。俺は単純にサッカーが好きなだけのワーキングクラスの人間、どこにでもいる普通の人間なんだよ」
バートンはうそぶくが、彼の言葉を信じてはいけない。
支離滅裂な行動とハイブロウなツイートで「謎」を振りまき、メディアに取り上げてもらえばもらうほど、バートンは密かにほくそ笑む。ルックスも悪くはないのだから、エキセントリックなキャラクターを究めていけば、ヴィニー・ジョーンズのようにショービズ界にデビューする芽も出てくるだろう。
いずれにしてもジャーナリズムに勝ち目はない。まじめに人物像を分析しようとするものであれ、バートンなど相手にしてはいけないと警鐘を鳴らすものであれ、話題にした時点でメディアは彼の術中に嵌っているのだ。
サッカー批評が彼を取り上げるのも今回限りにすべきだ。「ジョーイ・バートンに騙されてはいけない」。そう、彼の巧妙な罠にかかってはいけないのである。
【了】
初出:欧州サッカー批評6
プロフィール
ジョーイ・バートン
1982年、イングランド北西部マージーサイド州ノーズリー出身。貧民街に生まれ、14歳のときに両親が離婚。マンチェスター・シティのトライアルに合格し、2002年、同クラブでプロデビュー。中盤の中心選手として活躍し、2005年にはロビー・ファウラーがかつて着けていた8 番を継承。2007年、クラブで問題を起こし、ニューカッスルへ移籍。昨季よりQPRでプレーする。イングランド代表には、2007年のスペイン戦のみ、1試合の出場。熱狂的シティファンでもあるオアシスのノエル・ギャラガーと仲がいい。