湘南に欠けているものとチームとしての目的
湘南に欠けているものは何かと考えると、“経験”の二文字が浮かび上がってくる。現役引退の道を選んだ坂本を除けば、昨シーズンの主力がほとんどチームに残っているのは事実。しかしそのメンバーの経歴を見ると、J1で30試合以上の出場経験を持つ選手が、下村東美、古橋達弥、馬場賢治、中村祐也の4人しかいない。もちろん経験があれば良い、という訳ではないが、ほとんどの選手がJ1を初めて経験するシーズンに対して、不安を感じるのは当然だろう。
そこで今オフに補強した選手の顔ぶれを見ていくと、チームの方向性が明らかになってくる。
まず前線には、タイのムアントン・ユナイテッドからエジバウドを獲得した。エジバウドはブラジルとボリビアの国籍を持ち、ボリビア代表を選択。2011年のコパアメリカではアルゼンチン代表から得点を挙げたこともある。チームの紹介では、足もとの技術に長け、フォワードだけでなく2列目でもプレーができる選手とある。昨シーズンの戦いを考えれば、納得のいく補強だと言えるだろう。
またその他のアタッカーでは、熊本から武富孝介を獲得。得点力不足にあえいだ熊本でチームトップの14得点を挙げた武富は、決定力だけでなくドリブルで仕掛けていく突破力も持っている。前線でアクセントになれる存在だけに、起用法が注目される。
中盤には東京Vでボランチとして35試合に出場した梶川諒太と、栃木で主に右サイドで出場していた荒堀謙次を獲得。最終ラインには栃木でセンターバックとして23試合に出場した宇佐美宏和を獲得したほか、柏から同じく高さのあるセンターバック、クォン・ハンジンをチームに迎えた。いずれの選手も、バックアップの選手層に不安があるポジションに対して、的確に人材を招き入れた印象だ。
チーム自体が大きくその構成を変化させてシーズンに臨む訳ではなく、ベースを継続させながら戦って行こうとする意図が明確な今オフの補強となった。
ここから見えてくるのは、チームとしてのベースを作り上げる、という意志だ。現在の湘南は“エレベーターチーム”と言われても仕方ない状況にあるのは確かだ。2年ぶりの昇格となった今シーズン、“落ちたくない”という意志が強くなると、経験のあるベテラン選手を補強し、失点をできる限り防ぎながら少ないチャンスをものにするような“現実的な”戦い方にシフトすることも選択肢としてはあった筈だ。
しかし湘南は、昨シーズンのメンバーと監督を残留させ、J2で旋風を巻き起こしたスタイルで戦いを続ける、ということを選択した。それがどのような結果に結びつくのか想像することは難しいが、チームとしての目的は明確だ。戦力的にも、そのサッカースタイルからも、簡単なシーズンでないと予想することは容易い。しかしそこでブレることなく、チームとしての成果を得られるように期待したい。