ザッケローニとしても実験的な取り組み
そこで誰が行って誰がステイするのか、あるいはボランチと協力するかなど、基本的な動きにかなりの連動が求められる上に、約束ごとにも実戦に基づく応用の範囲が広いのだ。攻撃に関しては、サイドで数的優位を作りクロスを上げても、中央のFWと逆サイドのウィングの2人しかゴール前にいないことが多かった。
そこでボランチの1人が出て行かないとフィニッシュの厚みは出てこないが、攻守のバランスを全体で共有しきれていない現状では、どこまでリスクをかけるかも手探りの状態だ。こうしたことは経験と話し合いによって解決していく部分が大きいはずだが、どこかで集中的に完成度を高めていくタイミングが必要だろう。
これまでの日本代表で特殊なシステムとしては02年W杯を率いたフィリップ・トルシエの“フラット3”(DFラインをフラットに維持した3-5-2あるいは3-6-1)があるが、99年のワールドユース(現U-20W杯)と00年シドニー五輪代表の指揮も兼任した彼は、五輪が終わるまでは戦術的な吸収力の大きい若手の指導を徹底的に行った。
開催国としてアジア予選を免除されるメリットがあり、“海外組”も少なかったため、移動やJリーグとのオフの違いなどに頭を悩ませる必要も限られた。トルシエの場合は代表チームの指導経験が豊富であったことも軽視できない要素で、クラブの実績は申し分ないとはいえ、代表チームを初めて率いるザッケローニ監督の取り組みとしては非常に実験的であるのは間違いない。
ただ、それでも少なからず期待を抱けるのは、この3-4-3が持つ攻撃性、そして何より組織的なプレーを継続的かつ献身的に行うことができる、日本人の特性に適したフォーメーションであることだ。アジアカップ前の堺合宿において、ザッケローニ監督は3-4-3を左半面と右半面に分けるなどして、CBのビルドアップからSH、ウィングにボランチの1人が絡んで崩していく動きを精力的に行ったが、いかに連動して崩すかを共有しようとする意識が高く、動きの精度はともかく、組織力を活かしたサイドアタックは大きな可能性を感じさせた。