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“スーペル・デポル”を率いた稀代の戦術家・ハビエル・イルレタ インタビュー

text by 小澤一郎 photo by Kazuhito Yamada

インテリジェンスを持った選手が求められている


イルレタはビルバオの育成ディレクターを務める【写真:山田一仁】

――システムについても現代サッカーではバリエーションを持って試合中に変化させる必要がありますか?

「チームとしてのベース、たとえて言うなら舞台における台本のようなものは必要不可欠だが、それだけでは相手を驚かしたり、勝つことはできない。メッシがバルセロナで試合状況に応じてトップ下でプレーするのがいい例で、そのポジションチェンジによってシステムとしては4-3-3から4-4-2に変化する。ただ、攻撃時においては右サイドバックのアウベスがウイングとしてプレーすることになるので、3-4-3とも言える。相手が対応を考える前にどんどんシステムを変えることのできる柔軟性が現代サッカーにおいては何より重要だ」

――いまは選手についても戦術的柔軟性、インテリジェンスを持った選手が求められていると考えていいですか?

「数年前まではフィジカル的に強い選手が求められていたが、この2年はそういう流れになっている。

 例えばメッシ。ある有名な記者が『エル・パイス』という一般紙の中でこういう記事を書いていた。『メッシにインタビューしても何も興味深いことは言わないし、いまはインタビューを申し込もうとすら思わない。ただ、彼はピッチ上でそのインテリジェンスを披露する。言葉ではなくプレーで我々にインテリジェンスとは何か、選手の戦術眼とは何かを教えてくれる選手だ』。私もその通りだと思う。

 誰にとってもメッシは質素で純粋な何も知らないサッカー少年に思うし、彼はピアスもタトゥーもなく、車も高級車ではなくスポンサーから支給される車に乗っている。ただし、ピッチに入り試合でのプレーを見ると、誰にとっても『世界一の選手だ』とわかるプレーを見せてくれる。彼はドリブルで相手を抜く、ゴールを決めるといった派手なプレーだけではなく、トップ下に入った時の戦術的な駆け引きや目立たないプレー、ランニングからもそのインテリジェンスを披露している」

――今後、戦術はどのような進化を遂げていくと思いますか?

「それはわからない。新しい戦術というものは監督やチームが相手、試合に勝つために日々創意工夫していく中で無意識的に発生するものだからだ。新たな戦術や戦術の進化というものは予想できるものではなく、少し時間が経った時に『あれは今までにない新たな戦術だった』とわかるもの。

 とはいえ、代表レベルでスペイン代表が、クラブレベルでバルセロナが実力的にナンバー1の位置にいることで、彼らを倒そうとするほかのチームがカウンター戦術に近い戦術を考案していくだろう。明確にどういう戦術かは私もわからないが、方向性としてはこれまで述べてきた通り、柔軟性、多様性のある戦術だろう。

 よって、最終的には『戦術』と呼べないものになっているかもしれない。『カウンター戦術』と聞かされるとどういう戦術か理解できるが、体力的に余裕のある序盤は高い位置からプレッシャーをかける前がかりな戦術で、先制点を奪ったり体力的に厳しくなってきた時には引いて自陣のスペースを消す戦術、と言われてもそれはどういう戦術なのか理解し難い。

 今後は、そういう戦術的な幅を持ったチームが勝ち残っていく時代になるのではないかと思っている」

【了】

初出:欧州サッカー批評1

プロフィール

ハビエル・イルレタ
1948年生まれ、スペイン出身。選手としてはアトレチコ・マドリードでリーグ優勝、チャンピオンズカップ(現CL)の獲得に貢献。スペイン代表でもMFとしてプレーした。引退後は指導者の道に進み、デポルティーボの監督時代にはチームをリーグ優勝へ導くなど黄金期を支え、“スーペル・デポル”と称された。現在は、古巣アスレティック・ビルバオの育成ディレクターを務める。

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