――あなたが“スーペル・デポル”を率いて4-2-3-1のシステムを用いていた時の攻撃戦術は右のビクトル、左のフランと両サイドバックの上がりを用いたサイドアタックが主流でした。いまは、ライカールトがバルセロナでメッシ、ロナウジーニョを逆足の配置にしたような攻撃戦術、つまりはサイドを崩してクロスというよりもサイドでボールを受けて中にドリブルで入って仕掛けていく突破の方が多い気がするのですがいかがですか?
「ピッチをワイドに使って攻撃するという概念自体に変化はないが、スペイン代表やバルセロナはサイドにウイングタイプの選手を置くことではなく、トップ下やパサータイプの選手をサイドに置いてそこから攻撃を仕掛けるようになっている。
ただし、いまの戦術において重要なのはバリエーションがあるということ。以前のようにウイングタイプが縦一本の勝負を仕掛けるような戦術ではいけないが、サイドでボールを受けて中にドリブルを仕掛けるだけの戦術でも相手に読まれてしまう。スペイン代表もバルセロナもウイングに入る選手が頻繁にポジションを変えたり、中に入ってボールを受けるような柔軟性を持っている。
とくに、昨季のクラシコでグアルディオラが考えたメッシのトップ下起用は非常に効果的で、今季もクラシコ、インテル、デポルティーボといったビッグゲームで勝負を分ける戦術となっていた」
現代サッカーにおいて勝利の方程式は存在しない
――それでは、あなたが現代戦術をけん引しているスペイン代表やバルセロナと対戦するチームの監督ならどういう戦術を用いて戦いますか?
「ボール支配率で劣ることは間違いないだろうから、やり方としては全体的に引いて自陣のスペースを消すか、高い位置からプレッシャーをかけて相手の中盤から自由を奪うかのどちらかだろう。最終的にどちらを選ぶかは自分が抱えている選手やチームの特徴を見る必要があるのでいまの時点でどちらを使うとは言えない。
ただし、現代サッカーにおいてはこの戦術を用いれば勝てるという勝利の方程式はない。例えば高い位置からプレッシャーをかける戦術を選手に指示したとしても90分間それを続けるのはほぼ不可能だ。よって、時間帯や試合の流れによっては自陣に引いて守りを固める戦術も必要になってくる。
また、引いて守るにしてもボールを奪った時にカウンターからいい攻撃を仕掛けることが勝つための絶対条件だ。現代サッカーでは戦術にも選手にもチームにも柔軟性と多様性が必要で、多くの引き出しを持ってその状況、状況で適切な戦術をチームとして実行できるチームが強い。スペイン代表やバルセロナは、圧倒的なボール支配率を誇ることで一見戦術が不要に見えるが、選手同士がパス交換を通じていま何をすべきかをコミュニケーションできている。
監督の指示ではなく、選手がいま何をすべきかを判断し、各個人の判断がバラバラではなくチームとしてまとまっていることが彼らの強さの秘訣でもあるだろう」