ベトナム戦の後、長谷部誠キャプテンは「SB(SHのこと)が軸になるシステムということがよく分かった」と語っている。ここで彼が“SB”と表現しているのは4-2-3-1の両SB、つまり長友や駒野といった選手がそのまま中盤にシフトする形になっているため。
後ろを3人にし、中央のトップ下を削ってまで両サイドの高い位置に選手を確保しているのだから、そこを活かすことが必須となる。また片方のサイドで崩しても、トップ下の選手がいないためゴール前が薄くなりやすい。そこを補うのが逆サイドのウィングであり、ボランチ(厳密にはセントラルMFだが、ここでは慣用的にボランチを使用)の役割となる。
4-2-3-1の方が選手間で共通理解ができている
守備面から見れば、4-2-3-1ではスペースになっていた部分にSHがいるためサイドに数的優位を作りやすい。また原口元気が「前の選手に守備の負担がかからないやり方」と語るように、ウィングの選手が無理に深い位置まで下がっての守備を求められる場面が少ないのは大きなメリットだ。ただ、それも高い位置から連動したプレスをかけられていることが前提条件になる。
基本的に3枚で構成されるDFライン(サイドで守備をする場合、3バックが同サイドにスライドし、逆のSHがDFラインに落ちて4バックとなるのが基本)を崩され、SHが常時SBの位置に吸収されるような状態になると、どんどんずれていって後手後手になるリスクは常に抱えている。
つまり両方のフォーメーションにメリットとデメリットが存在し、志向する基本スタイルの中で選手たちがどうメリットを活かし、デメリットを状況判断で克服するかがポイントとなるが、ザッケローニ監督の戦術的な要求をより満たすのが3-4-3であることは明白だ。しかし、多くのクラブで選手が経験し、慣れ親しんでいる4-2-3-1の方が選手たちはどの状況でどう判断すべきか、選手間で共通理解ができている。
言い換えればすでに熟成期にあり、ザッケローニ監督が指示を出すべき余地も少ないのだ。現時点で信頼できるのは4-2-3-1であり、選手たちが手探りの状態での3-4-3を失敗の許されないアジア予選などに用いるのは大きなリスクを伴う。それを承知しているからこそ、ザッケローニ監督は可能な限り3-4-3の習熟に時間を割きながらも、実戦起用をテストマッチに限っているのだろう。