鳥栖がJ1の舞台で成績を残すことができた理由
サガン鳥栖は、昨シーズンのJリーグで最も大きな驚きを与えたチームと言えるのではないだろうか。クラブ創設史上初めてのJ1昇格を果たしたが、18クラブの中で与えられた強化費は最小であり、限られた予算でどれだけの戦いができるのか、開幕前は悲観的な見方をされることが多かったのは事実だ。
しかし蓋を開けてみれば、尹晶煥監督が継続して築き上げてきた、オールコートプレスとも呼ぶべき前線からのハイプレッシャーと、奪ってからのショートカウンターが対戦相手に脅威を与え続た。序盤戦から常に一桁順位をほぼキープし、そのスタイルから厳しい戦いが予想された夏場も上手く乗り切りながら、最終的にリーグ戦を5位で終えるという素晴らしい成果を残した。
最終節に勝利すればACL出場権を得られただけに、監督と選手は口々に“満足していない”と述べていたが、それでもクラブの置かれている状況を考えれば、ベストに近い結果を得られたと言えるシーズンだろう。
鳥栖のサッカーを表現するときに“ハードワーク”という言葉が良く使われるが、当然それだけで上位に進出できるほどJ1の舞台は甘くない。鳥栖の真骨頂が確かに前線からのプレッシングにあるのは間違いないが、特に後半戦に入ると対戦相手に応じて細かくプレスの開始位置を変化させ、ときには大きく引いて相手の攻撃をいなすような試合も見られた。こうした柔軟性を持てたことが、安定した試合運びを可能とする大きな要素となっていた。
また、奪ってからゴールへ直結するようなショートカウンターに関しては、Jリーグの判定基準が変わってきたことも有利に働いている。昨シーズンからJリーグは、激しいコンタクトでも正当なチャージであればプレーを流して“戦わせる”ジャッジを指向しており、それが鳥栖のプレースタイルにマッチした側面はある。第4節の神戸戦で水沼のボール奪取からゴールに繋がったシーンなどはその最たる例だ。与えられた環境の中で、よりベターな判断をチームとして選択できていることの現れと言える。
セットプレーの強さも、鳥栖の上位進出を支えた大きな要素となっている。全体的に体格の良い選手が多く在籍しているから、もとよりゴール前の高さにおいて対戦相手を上回ることが多い。そして、キッカーとしてもスローワーとしても高いクオリティを持つ藤田直之の存在が、チームの高さを生かしている。
特に藤田のロングスローは、タッチラインからペナルティスポットの辺りまでライナーで飛んでいくという驚くべき鋭さを持っていて、コーナーキックよりも角度が付くぶん、得点に繋がりやすい。昨シーズンもスローインが直接アシストに繋がったシーンはいくつもあり、今シーズンも同じような場面は何度も見ることができるだろう。
そして、33試合で19得点と、佐藤寿人に次いで得点ランキング2位となった豊田陽平が、J1の舞台で絶対的なストライカーに進化したことが最も大きいことだろう。数字だけを見ても素晴らしい結果だが、それ以上に豊田はファーストディフェンダーとして何度も相手にプレッシャーを掛け、守備のスイッチとなる献身的な動きを見せた。
あれだけディフェンス面で運動量を要求され、貢献度も高い選手が、さらに得点という結果を残したところに大きな価値がある。何故ザッケローニ監督が興味を示さないのか理解に苦しむほどの、圧巻のパフォーマンスをシーズン通して見せていた。チームとしての共通理解から生み出されるチャンスシーンを冷静に仕留めるストライカー豊田の存在は、鳥栖が今シーズンも上位で戦うための絶対的なピースだと言える。