何を持って成功とするのか、解釈は難しい
ところが、開幕早々予期せぬ事態が起こる。2010年3月20日、古巣の新潟戦、後半途中から投入されたP・ジュニオールは24分後に西野監督から交代を命じられる。去り際、ベンチに向かって暴言を吐き、ユニフォームを下に叩きつけた。
「あのあと彼と話しましたよ。『クラブやサポーターには申し訳ないと思うが、どうしても気持ちを抑えられなかった』と。彼の場合は奥さんが17歳だったかな。日本になかなか馴染めない様子だった。今年、FC東京でも故障が多く、ブラジルに帰国することになってしまいました」
P・ジュニオールのように、日本国内での移籍先にG大阪を希望するブラジル人は多いという。レアンドロのほかに、アラウージョ、マグノ・アウベス、バレー、アドリアーノといった選手が高い報酬を得られる中東への移籍を実現させ、そのルートが広く認知されている。
たとえクラブ側が長期的なスパンでチームに組み込みたいと望んでも、契約時にバイアウト(違約金)の設定をし、それを超える額でオファーがあれば手放さざるを得ない。
「何をもって成功とするのか。解釈が難しいところでもあるんです。選手を売却し、利益が出たからOKか。決してそうではない。契約の継続を希望するクラブ側のエージェントとして自分が動いた場合、選手とブラジルの代理人を説得できなかったという責任が生じます」
エージェントはクラブと選手のどちらかの側に立つのが基本だ。両者の利益は相反することが多く、双方から同時に報酬を受け取るダブルコミッションは業界のご法度とされる。
また、一概にゴールやアシストなどの数字で成功か失敗かが分けられるものでもない。
「ガンバのブラジル人を例に挙げると、アドリアーノと今季途中から加入したラフィーニャ。日本人選手の声を聞くと、ラフィーニャのほうが味方を使うのが巧く、一緒にプレーしやすいそうです。仮に両者が同等の結果を残したとして、どちらを評価すべきかは明白でしょう」
約1時間のインタビューの間、西真田の携帯電話が何度か鳴った。あるときは日本語で、あるときはポルトガル語で対応する。Jリーグはシーズンの佳境に差し掛かっているところだが、エージェントはすでに来季に向けて動いている。
夏と冬、Jリーグのウインドーが開く間際は特に動きが活発だ。この時期、事務所に届けられる外国人選手の宣材資料、その数100は下らない。積み重ねられたDVDのなかにターゲットは潜んでいる。
選手の映像とプロフィールやプライスを見比べ、およそ15本程度に絞る。JSPは西真田のほかに3人のFIFA公認エージェントを抱え、総勢10人のスタッフで選定作業を行っている。